「本当は日本人ってすごいのよ‥‥。そのすごい日本人を骨抜きにしようとしたアメリカの戦略が成功したってことよね」
───そうかも。それにしても、気概がない。希望がない。
「これからの日本をよみがえらせるには、教育しかないわよ」
───いまの教育は、従順で体制に逆らわない、辛抱する人間を育てるためにあるみたいなものですからね。
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A用品店の店主との会話。83歳になる。
いつも二俣の町にでるとき、ふらっと寄る。
夫は元日大の相撲部にいたという強者だが、もう亡くなっている。
店の裏には伊豆石で作った蔵があった。そこには、有吉佐和子が疎開していたという。惜しいかな、もう解体されてしまったのだが。ああ、もったいなや。
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あかりは、ここで雑談している間、となりの書店(谷島屋)に立ち読みに行く。疲れては帰ってきて、そしてまた立ち読みに行く。
「昔は、立ち読みする生徒がたくさんいたけれど、いまじゃ一人もいないよ。日本人ってバカになっちゃったみたい」
───そもそも本を読まない。みんなテレビ見て、「テレビが言ってたもん」と。信用して大騒ぎしてしばらくしてもう忘れている。ますますバカに。
「これから教育をつくりなおして、ほんとうの日本人を作るには、あと100年はかかるわね」
───おちるところまで、おちる。それしか復活はないかもしれませんね。
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昨年、スリランカのスマナサーラ長老と対話した。
以下は、そのときのやりとり。
───いまの日本は先行き不安ばかりです。自信を失い、ものすごく閉塞的になっています。暗い人がどんどん増えていきます。ダメになっていく感じをみんな持っているんですね。どうしたらいいのでしょうか? どんどん坂道を転がるような感じがあります。
「わたしは、小さいころ親たちからよく言われましたよ。〝お前たちは怠け者だ。日本人を見習いなさい。日本人というのはいつも働いているんだよ。手洗いにいっても編み物で何か縫っているほどだ。そうやって、アジアで第一の国になったんだ〟と。
その勤勉な日本人はどこで止まってしまったんですかね。いつから化石になってしまったんですかね」
───化石になってしまった‥‥。どうしたらいいものやら。
「しかし、これを解決することは、簡単なことなんです」
───簡単ですか。
「こう思うことです。
世界は毎日毎日変わる。変わる。世界は、毎日毎日違う。世界は、瞬間瞬間、変わる。
変わっていく現実に対して、わたしはどうすればいいかと悩んでも仕方がないんです。
変わっていることに気づけない人々は、死ぬしかないでしょうね。
大きな地震が起きて津波がくるとしたら、もう一目散に逃げるしかない。
津波が来るのに、何かも捨てて逃げなかったら、津波に巻き込まれてしまいます。
水に浮かんだボートは波が来れば揺れますね。それに乗っていれば、ボートに合わせて体も揺れるでしょう。揺れるのにまかせるしかないんです。一緒に揺れなかったら水の中に落ちるか、ボートが転覆するかでしょうね。
まあ、私のような年齢になってきたら、あんまり先がない。だから揺れなくてもいいともいえますが。それはそれで、どんどんフリーになっているので結構なことなんです」
とにかく瞬間瞬間、世界は変わる。状況は変わるんです。
そのことが本当にわかるかどうかです」
───なにしろみんな先行き不安でいっぱいです。昼も不安で夜も不安。いつも不安。
「不安なのは、そもそも安定を求めているからです。
安定はないと腹をきめることです。
安定した会社、安定した商売、安定した家族。そんなものはないんです。時計がいつもちゃんと動いていたとしても、ずっとそのまま安定して動くわけはないのです。いつか止まることもあります。すべては瞬間瞬間、変わるのです」