「きょうは仕事にまちなかに行くぞ。あかりも行くかい?」
──行く、行く。
87歳の竹山さんの作品集(もめんで作った布絵)の打ち合わせだ。
クルマで往復3時間。
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運転中はヒマだ。あかりが小さいときは、しりとりしたり歌ったりであったが、いまは科学的なこと哲学的な話をするようになった。
「寒いね、どうして北風が吹くの?」「どうして北風って寒いの?」
───北風ってのは、すごく寒いシベリア高気圧という冷たい空気の塊が日本に運んでくる。だから、寒い。そこは、地球の自転と公転の関係を説明しなくちゃいかんけど、こんどゆっくりね。
風が吹くと寒いのは、風が冷たいこともあるけど、体温より低い温度の風が皮膚に当って、体温が奪われるからだよ。だから、厚着すれば体温が保たれる。
それとね、地球の三分の二は海なんだよ。その水は太陽のエネルギーによって蒸発する。蒸発した水は雲を雨や雪となってまた地面に下りてくる。水蒸気は気温によってうごく。水は冷たいところから温かいところに移動する。それが風となる。で、季節によって吹く風が違うんだ。いまは北風だけど、春は東風だよ。「春一番」といって、そのうちすごい風が吹いてくるよ。
「行政ってどういうこと」
「政府って何?」
───それらは、自分では稼がない。税金で暮らしている。市民から税金としてお金を集めて、みんなのために使おうというのが行政だ。みんなの役に立つことにお金をつかうんだ。だから、公平にみんなのために使う。
公僕といって、みんなのために仕事をしなくちゃいけない。そして、政治は市民の声を行政に生かすのが仕事なんだ。でも、おバカな議員も多いし、自分たちだけが儲ければいいという輩が多くて、うまくいかないのがいまの日本だ。
まあ、おとうちゃんの多分な主観も入れながら、そんな話をしてまちなかに移動した。
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竹山さんを訪ねる。待ち合わせの場所が、ものすごい冷たい風。あまりに寒くて、あかたりとキックボクシングの練習。
ゲラができたので、「カバーデザインどうする?」「この図版はもっと大きくする?」「この山野草の名前はこれでよかった?」などと打ち合わせ。
「まあ、池谷さんのセンスで全部おまかせするわ」
竹山さんは女性でひとり暮らし。子どもが二人いたが、離婚。母子寮に暮らしながら仕事をしてきた。そして、子どの手が離れた頃から、布絵を習いだして、毎日、絵の創作をしてきた。いまも、毎日、布絵の工夫を楽しんでいる。
8年前に作品の1集をつくらせてもらって、こんどはその2集となる。
「今年、喜寿なんだから、わたしが死ぬ前に作ってもらいたい。姉は96歳だし、いつ死んでしまうかわからない。はやくお願いね」
そう言われつつ、なかなか着手できなかった。
手を付ければすいすい進むんだけむど、そこに至るまで「ああ、やらなくちゃ」と重たい気持ちがいつもあってストレスだった。「いつてきるのかしら?」と心配させ続けていた。
まあ、ここまで完成したら、あと数日、印刷まで10日間かな。
2年前に大雪の中で、山奥の地で大城さんの紙漉きとともに個展を開催したが、50名余もきてくれた。本ができたら、春には個展を企画してみようかな。
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1集を企画する頃には、あかりは生まれてなかった。
それがいまでは、助手をやってくれようとしている。
打ち合わせ風景を撮影したり、この図版はもっと大きくと言うとそこに書き込んだり。
「おもしろい父娘(おやこ)ねえ‥‥」竹山さんは、笑っていた。
打ち合わせが終わると、となりがメガ・ドンキホーテ。
いろいろなものが所狭しと並んでいる。
あれやこれやと買うが、入れる袋を忘れた。10円で袋を買うのも癪なんだなあ。
───ダンボールをいただけますか?
「あいにく、二階にはないんです。一階にあります」
すると、あかりが「わたしがとってくる」と駆け出した。
なかなか気がつくようになってきた。
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帰りはいつものようにサイゼリヤ。ミラノ風ドリアとピザとジェラートで二人で1,260円。
いまの物価高の時代、サイゼリヤはありがたい。もうお客は満杯。あかりも満足。
サイゼリヤのきっかけは、雑誌で社長を取材するとき、まずは店に行ってみなくちゃというのがきっかけ。
東京理科大の学生時代に、千葉の市川一号店を出した。ところが店にヤクザが来てボヤを出して出火したり苦労して今のサイゼリヤがある。じかにお聞きするのは、得難い体験であった。
まあともあれ、まちなかにいくといろいろおもしろい。
こうして、あかりはおとうちゃんの仕事ぶりをみながら、社会勉強していくことになる。