過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

いま子どもの居場所というか、フリースクールを作ろうと企画している

「お客様をつくらないこと」
確信を持って即座にそう言われた。
──え? お客様をつくらない?ドラッガー経営学ではまず「顧客は誰か?」といいますよね。客がなければ経営は難しいのでは。
「この事業で収益をあげようとしていません。収益をあげようとすると、さまざまな投資と人件費がかかります。とくに人件費です。人件費をかけないためには、〈お客様〉をつくらないことです」
──なるほど。お金を払ってくれる「お客様」をつくると、こちらはサービスを提供する側になる。「もしも万が一」のために、たくさんの準備をしなくちゃいけない。「お客様」相手じゃなければ、そのあたりはラクですね。
「そうです。ある大きな何千人もが参加するイベントがありましたが、うまいこといきました。もしもこれを〈お客様〉を相手にきちんとやるとなると、ものすごく分厚い指示書と運営会議、段取りの下準備がかかったことでしょう。ところが、その集いは、〈お客様〉をつくらなかったので、とてもスムースにいきました」
──たしかに、参加者が「お客様」じゃなくて、一人ひとり責任もって行動することにすれば、こちら側は、余計なスタッフやエネルギーはいりませんよね。
「ひとり一人が主体性を持ってもらえば、うまくいくんです。〈もしもなにかあったら病〉にかからないですむ。〈お客様〉じゃないので、こちらは相手の言い分は聞かない。いやなら参加しないでいいいですよ、と言える。非営利だからこそサービスしないことができるんです」
  ▽
──なるほど。そうやって、「瀬戸ツクルスクール」の生徒はすでに70名近くになった。常時40〜50人は来ていますよね。すごいことです。
「初めは、生徒は6〜8名でしたよ。場所もジプシーでした。そして、しばらく休校しました。しかし、保護者からの依頼で再開しました。
人を集めるために、たくさんの講演はしましたよ。そう、年間200回はしたでしょうか。〈参加者が一人でもいいから、講演します〉と。やがて、駅の近くの建物を提供してくれる方も現れ、次第に生徒が集まりだしました。うちのスクールに通わせたいということで、他の地域からの教育移住も10組を超えてきています」
──生徒にしてみると「行く」「行かない」は自分で選択する。何をするにしても、選択は自分にある。人生において、自分で選択して行動するっていうのは、とてもいい教育になりますね。
「そこです。私は〈すべての人生の決定は、自分が選択している〉というアドラーの心理学をベースにしています。」
  ▽
──ところで、運営の方法は、みんなで協議したりするんですか?
「自分で決めます。自分が全リスクを背負います。しかしストレスがないようにします。そのために、非営利で運営しています」
───理念を打ち出して、ビジョンを示して行うってことがプロジェクトのポイントですよね。
「理念は瀬戸市の理念です。瀬戸市の理念をもとにした〈市民立小中高一貫校〉です。」
  ▽
私はいま子どもの居場所というか、フリースクールを作ろうと企画している。廃校を活用して、すすめるつもりだ。
それで、「瀬戸ツクルスクール」の代表、一尾茂疋(いちお しげひこ)さんにリモートでお話をお聞きしたのであった。
一尾さんは愛知県瀬戸市に市民立小中高一貫校「瀬戸ツクルスクール」を非営利で進めており、生徒も70名近くいる。2014年にスタート。授業料無料(公立学校同様に昼食費・施設利用費の実費のみ)の学校で、誰でも入学できる。