過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

精神科医による電気療法

東大医学部を出て精神科医になった加賀乙彦さんの、精神病患者に対す電撃療法の体験。これは本人から直接お聞きした。

加賀さんが東大の医局に入局した一九五四年の春には、まだ盛んにおこなわれていたという。一人で四、五十人に電気療法をしていたという。
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電撃療法室というのは外来の端にあり、窓側に土間を残して一面に畳が敷きつめられていた。

医師は土間に立ち、畳の上に寝かされた患者の頭に受話器型の電極を当て百ヴォルトの電流を数秒通電するのだ。

患者は瞬時にして意識を失い、典型的なテンカンの大発作をおこす。この大発作が精神分裂病に効くとされていた。

ここで治療法の効果を云々する余裕はないが、問題なのは午前中の限られた時間に一人で四、五十人に電気をかけねばならないことである。一人一人呼びいれていたのでは到底まにあわぬ。

そこで四人の患者を一度に呼びこむ。頭を土間に向けて寝かし、手拭いで目を蓋い、やおら端の患者から電気をかけていき、四人に一せいに大発作をおこさせる。

発作中に舌を噛んだりすると大事だから看護婦一人が二人の顎をおさえ、医師自身もほかの二人を受持つ。むつかしいのは患者が好奇心をおこし、隣の患者が何をされているかを横目で見てしまう場合だ。
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『頭医者事始』(加賀乙彦著)より

当時はロボトミー手術(前頭葉白質切截術)も行われていて、フリーマンとジェームズ・ワッツ (James W. Watts) により術式が「発展」されたこともあり、難治性の精神疾患患者に対して、熱心に施術された。1949年にはモニスに「ノーベル生理学・医学賞」が与えられたのだった。

オウム真理教の幹部で、スパイと間違われて、この電気ショックを数度、与えられた人を知っている(2名)。おそらく電気ショックで「海馬」(いわば大脳にある記憶貯蔵庫)を破壊されたか、麻痺されて記憶回路がつながらないのだと思う。話していると至って普通なのだが。

いまおもうと電気療法もロボトミーも極端に事例であるが、医者も世間も疑うことがなかった。

同じようなことが、もしかして、死にゆく人に対する胃ろうであるとかは鼻からの栄養補強とか、抗がん剤とか、後世になって「なんて残酷なこと」と思われることがあるのかもしれない。