過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

すなわち呼吸に意識を向けること。呼吸につなぎとめる

ある男が優秀な召使がほしいと思っていた。なんでもやってくれる召使がいたら助かる。そうして、そんな召使があらわれた。なにか命令すれば、即座にやってくれる。「ご主人様、次は何でしょうか」と。これは便利でいいと思った。

やがて、ほとほと疲れてしまう。気が休まるときがない。なにしろ、どんなことでも、どんなことでも、ものすごいスピードで実現してしまうのだ。はい次、はい次は……。と迫ってくる。もう、なんにもしなくもいいよと言っても。そうはいかない。はい次は、はい次は……。

ついには、その召使いのために、必要のない仕事を次々と作らなくちゃならなくなった。
さあて、困ったぞ。仕事がないからだ。

ある仙人に相談した。仙人は、こうアドバイスした。「一本のしっかりした竿を立てるのじゃ。その竿を上がれと命令する。上がったら、下がれと命令する。上がったり、下がったりさせればいいのじゃ」

なるほど。そうやって命令すると、召使は竿を上がったり下がったり、ずっとしつづけている。
これで、男はやっと心が安らかになった。

これは、なんの話かというと、召使とは、自分の考えそのものだ。次から次へと思考というは、ものすごい速さで動き回る。へとへとになってしまう。

自分でコントロールできない。変えられない、止められない。勝手に動き出す。暴走する。

そこで、竿を上がったり下がったりさせる。それは、すなわち呼吸に意識を向けること。呼吸につなぎとめることを指す。
吐く息、吸う息に、しっかりとつなぎとめること。

考えを止めるひとつの大きな鍵。それは、呼吸に意識を向けること。吐く息、吸う息に意識を向けること。つねに、呼吸に気づいていること。呼吸につなぎとめておく。そんな捉え方もできるかと思う。

この話は、インドで出家したアメリカ人の友人から聞いた。出典は聞かなかった。『マハーバーラタ』あたりかもしれない。