過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

重い息と遠い森 病院の検査

【重い息と遠い森】2025.2.28
① 病院での検査デー
② 肺の線維化は進んでいる
③ 最終着地点について聞いた
  ▽  
今日は病院の検査日だ。採血、採尿、レントゲン、CTスキャン、そして6分間歩行検査。機械的な手順が淡々と進む。
現代の医学は、データがすべてだ。この数ヶ月の病状の進行は、数値となって刻まれていく。  
担当医がグラフを示す。モニターには、私の肺がどんな物語を紡いでいるのかが映し出される。

「肺を線維化させようとする働きは弱まっていますが、線維化自体は進んでいますね」と医者が言った。  

肺活量は、同年齢で同じ体重の人と比べても6割しかない。それが今回の検査でさらに落ちていた。6分間歩行検査の結果も厳しい。三ヶ月前より歩ける距離が短くなり、最初の1分で息が上がり、血中の酸素が急に下がる。
  ▽
「息を吸っても、酸素がちゃんと入らない感じなんです。毎回、呼吸の重さを感じることも多くて。まあ、日頃の運動不足もあるんですけどね」と私はつぶやいた。  

肺に悪いとわかると、楽しみにしていた焚き火や掘りごたつをやめた。
でも、オフェブという薬には手が伸びなかった。線維化を緩める効果はあるらしいが、治るわけではない。モチベーションが湧かず、この2週間は飲んでいなかった。  

「ええ!? 飲むのをやめたんですか?」と医者が少し驚いた声を出した。
「元に戻る薬ではないですが、進行を緩やかにする効果はあります。2000人以上の治験で証明済みですよ。副作用で激しい下痢に悩む人もいますが、池谷さんにはそれがない。一粒6000円と高額ですが、指定難病と身体障害者三級のおかげで月5000円で済んでいます。飲むか飲まないかは自由ですけどね」  

その言葉に、「ううむ、進行を遅らせられるなら、やっぱり飲もうかな」と気持ちが少し動き始めた。  

「呼吸が苦しくなってきてます。このままいくと、酸素ボンベを引きずる生活になるかもしれないですね」と私は言った。  

医者はメガネを直しながら、穏やかに答えた。「それは眼鏡みたいなものですよ。かけたほうがよく見えるならかければいいし、見えるならかけなくてもいい。そういう感じです」
  ▽
そして、核心というか、最終着地点について聞いてみることにした。  

「人はいつか死にますよね。死ぬ瞬間は一瞬だと思うから、それはいいんです。でも、この病気だと、死ぬまで呼吸がすごく苦しくなる。それがつらそうで……」  

医者は「うんうん」と静かに耳を傾けてくれた。  

「3ヶ月前、内視鏡で肺の洗浄をしたとき、点滴で麻酔をしてもらいました。半分意識があって、痛みはほとんどなかったんです。終わって2時間、ベッドで横になって森の景色を眺めてました。

半分覚醒していて、半分ぼんやりしていて、至福な感じがありました。清朝時代の『阿片窟』ってこんな感じかなって思ったんです。あれってモルヒネですか?」  

医者は首を振って笑った。「いや、あれはモルヒネではなくて、アンフェタミンですよ」  

「そうですか。ああいう感じで、苦しくて死にそうなときは、モルヒネで楽にしてもらえますか? ホスピスがいいんでしょうけど、満杯だったらどうしましょう?」  

「ここでも対応できますよ。モルヒネも使えます」と医者が答えた。  

その言葉に、なんだか小さな安心が胸に広がった。
そして、もう一つ気になっていたことを聞いてみた。  

「医療用大麻って、てんかんに使うって聞きましたけど、この間質性肺炎には出してもらえませんか?」  
「いや、それは無理ですね」と医者はあっさり断った。  

そりゃそうだろうな、と苦笑いを浮かべ、診察室を出た。
外は小雨が降っていた。春の気配が日増しに感じられる。明日はもう3月だ。