「墓じまい」①
よくある「墓じまい」のケース。本人は都会に住んでいるが、先祖のお墓は田舎にある。しかし遠いので、墓参りもままならない。
家の近くの霊園(納骨堂)にお墓を納めたい。そこで墓石を撤去し、檀家は離れることになる。
しかし、その際に寺から「離檀料」を要求されたりするケースもあってトラブルになりやすい。なかには200万円要求されたという話も聞いた。
ある人は、山里から神奈川に移って数十年。もう墓参りもできないので、墓を処分した。ついでに、空き家になっている田舎の家も処分したいということであった。その相談に見えた。さいわい離檀料は要求されなかった。
「墓じまい」にあたっては、どれくらいの費用がかかるものなのか、聞いてみた。
神奈川の霊園にお墓を買って建てるについては、その永代使用料と墓石で350万円。田舎の菩提寺の墓石を移動して廃棄処分に40万円。お寺に謝礼が10万円余、さらには「魂抜き」と「魂入れ」に数万円。
さらには、空き家の解体に100万円。ということで500〜600万円余の費用がかかるような話だった。それはなんとも、高額な費用だ。
お墓などに、そんな大金をかけるなど、ぼくには信じられないけれど。余裕があれば、本人の満足の問題。本人にしてみたらお墓も移し、空き家も解体して、これでやっと安心ということになる。
お寺にある古いお墓というものは、契約書もない。何年続いてお墓があったのかも、定かではない。
親のそのまた親の……と先祖の墓が菩提寺にあるということで、寺と個人が「契約」を交わして、「契約書」を作成するということは、なかったろう。
しかも、墓というものは、代々続くことを前提にしており、その家が檀家を離れるということは、考えてもいなかった。なので、「離檀料をください」「いやそれは高い」「いや払いません」というトラブルのもとになるわけだ。
遺骨を移すにあたっては、それまでのお墓が菩提寺にあった場合には、埋葬許可証にお寺の印鑑を押してもらわなければならない。「離壇料を払わなければ判子を押さない」と言われたら、とても困る。檀家にすると、そういう弱みがあるわけだ。
それにしても、「離檀料」というのは、どう考えたらいいのだろうか。
お寺にしてみたら、檀家が離れるということは、即、安定した固定客が減ることを意味する。だから、この先の見込まれる収入分をもらっておきたいという気持ちはあると思う(寺の維持費など費用もかかるわけだ)。いわば「手切れ金」のようなものか。
ある有名な禅のお坊さんに、このことを聞いたことがある。
──離檀料のトラブルについてどう思いますか。
──うん。そのことは承知している。それはね、そもそもお寺に相談してはいけないんですよ。まずお寺に相談したら、たいへんですよ。もしも「じゃあ離檀料100万円だ、200万円だ」と言われたら、困るでしょう。
──どのように言えばいいですか。
──このように言うといい。「この度、いろいろ故あって檀家を離れることに致しました。お墓も移したいと思います。つきましては、家族でいろいろ相談しました。そして、このように謝礼をさせていただきたいとと思います。ありがとうございました」と、自分たちで適当と考えたお布施を渡せばいい。
そのように言っていた。しかし、ある人はその場でお布施をお渡ししたが、翌朝、お寺から電話があった。「これでは、お布施が足りません」と言われたという。(つづく)