梅原猛さんの講演に行ったときの話。もう16年も前のことだが、思い出した。梅原さんが、とっても嬉しそうに語っていたのが印象的だった。
次のような語りであった。
かつては社会科学は、ほとんどマルクス主義だった。かの東大で大内兵衛さんなどが、堂々とマルクス経済学を講義しておった。
そのマルクス経済学を学んだ連中が、いま大蔵省の役人とか大会社の社長とか政治家になっている。おもしろいもんだ。
そもそも、みんな本気で思想をやろうなんて思っちゃいないんだな、日本人というのは。
ボクなんかは、彼らから、反動思想家、体制派だと批判されたもんだ。
そのボクが、いまこうして元気だ。なのに、マルクス主義の連中は、いまちっとも元気がないなあ。
所詮、他人のふんどしで相撲をとっているからダメなんだ。自分のもので、自分の体で勝負せんといかんよ。
自分の体だったら、どんなに痛めつけられたってね。そこからはい上がれるってもんだ。
ボクはもう76や……。もう、先はないなぁ。せいぜい、あと10年くらいやろ。今日の参加者にも、先が短い人が、ようけおるなあ。(場内、爆笑)
でもなあ……。死んだら、終わりやないんだ。死んだら、なんにもなくなるなんて、寂しいなあ。ほんとうは、なくならないんや。
浄土に行けるんでっせ。あの世や……。あの世があるんだ。あの世にいったらな、お父さんやお母さんや、先祖にまた会えるんだ。
そうして、ふたたび、この世にもどってくる。これが、日本の死生観なんや。
───調べたら、梅原さんはもう92歳だ。すごいな。梅原日本学。自分のもので、自分の体で勝負してきた思想家だと思う。
ただ、現在、死後には浄土がある。浄土に行けると本気で、梅原さんは思っておられるのか、じかに聞いてみたいものだ。
ちなみに、この講演は、国士舘大学の西原理事長が主催したもの。このときは、取材の仕事であった。国士舘というと、かつては右翼色の強い大学として知られていたが、いまはそのような雰囲気はほとんどない。