過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

梅原猛さんが亡くなった。93歳。

哲学者の梅原猛さんが亡くなった。93歳。

18年前に講演の取材に行ったことがあった。国士舘大学の西原春夫理事長主催で、 梅原さんと野村万之丞(五世)さんが講演された。野村万之丞氏は、3年後、44歳で亡くなる。

梅原さんが、とっても嬉しそうに語っていた。こんな話が印象的であった。

かつては社会科学は、ほとんどマルクス主義だった。あの東大で大内兵衛さんなどが、堂々とマルクス経済学を講義しておったんだ。 そのマルクス経済学といえば、資本家は悪だというような話である。しかしそれを学んだ連中が、いま大蔵省の役人とか大会社の社長とか政治家になっている。

おもしろいもんだ。そんなもんなんだ。そもそも日本人というのは、みんな本気で思想をやろうなんて思っちゃいないんだな

ボクなんかは、彼らから、「反動思想家、体制派だ」とよく批判されたもんだ。そのボクが、いまこうして元気なんだ。なのに、マルクス主義の連中は、いまちっとも元気がないんだなあ。

所詮、他人のふんどしで相撲をとっているからダメなんだ。自分のもので、自分の体で勝負せんといかんよ。自分の体だったら、どんなに痛めつけられたってね。そこからはい上がれるってもんだ。

ボクはもう76や……。もう、先はないなぁ。せいぜい、あと10年くらいやろ(実際もこのときから17年後に亡くなることになる)。今日の参加者にも、先が短い人が、ようけおるなあ。(場内、爆笑)

でもなあ……。死んだら、終わりやないんだ。死んだら、なんにもなくなるなんて、寂しいなあ。ほんとうは、なくならないんや。

浄土に行けるんでっせ。あの世や……。あの世があるんだ。あの世にいったらな、お父さんやお母さんや、先祖にまた会えるんだ。

そうして、ふたたび、この世にもどってくる。これが、日本の死生観なんや。


そんな話であった。死後には浄土がある。浄土に行けると本気で、梅原さんは思っておられたのか、どうか。最晩年に、インタビューさせてもらいたかったな。

ある出版社に、梅原猛さんと山折哲雄さんのビッグ対談の企画提案をしていたばかりであった。お二人とも高齢なので、もう難しいでしょうねえということを話した。そして、山折さんからは「もう年だから」と断られ、梅原さんは亡くなられた。