かつて繁盛したA木材店に寄る。もう店じまいだ。
木材があちこち散乱している。
──こんちわっ。元気ですか。
「おお、おかげさまでなんとかのう。」
──いろいろ聞くと、あちこちで死んでしまった人、たくさんいますね。
「そうなんだ、この集落で昨年は4人だよ。うちのおふくろも亡くなった。
──あれまあ、それは知りませんでした。2年前にお訪ねした時、お元気でしたけど。お父様も、ぼくが初めて会ったのはが8年くらい前、話がとても盛り上がって、「きょうは楽しい人に会ったぞ。池谷さんというんだ。さて、昼飯の後は山に行って木を切るぞ」と。それで、2時間後には、崖から落ちて亡くなったんですよね。
「おお、そうだっけかなあ。元気なオヤジだった。町会議員も勤めてなあ。あちこちの山を買っていた。そういえば、Kさんも、Mさんも、Yさんも、それからIさんも急になくなったよ。このままじゃあ、みんないなくなってしまうなあ。
──そうそう。大きなケヤキを切って板にしてもらおうとしたFさん、覚えてますか。こないだ、山で急死したんですよ。見事な民泊の古民家を作って、さあこれからというときだったのに。
「池谷さんも、わしもどうなるかわからんなあ」
──ほんとにそうです。今日で会うのが最後かもしれない。まあところで、要らなくなった腐ったような材木でもいいですから、もらえますか。風呂の薪にしたり薪ストーブで燃やします。
「おお、いいよ。処分できるのでこちらは助かるよ。適当な寸法に切って、こんど持っていくよ」
──あの軽量鉄骨の工場も解体しなくちゃいかんですね。こないだペルー人を紹介したけど、ひとりで見事に解体していましたね。
「おお、よくやってくれた。あれじゃあ、日本人はかなわんなあ。若いし、よく仕事するし、機材も持っているし。田舎は年寄りばかりでおしまいだ。マックスバリュがオープンして買い物が便利になってありがたいけどなあ。」