マンダラ塗り絵に打ち込んでいる。Mさんは94歳。
安定した集中力。あたかも砂曼荼羅をつくるチベット仏教の僧侶みたいだ。
まったく愚痴や不満、不平というものを聞かない。
どうしてですか、と聞くと。
「だって、不満や愚癡なんて、なんにもないもの」と言う。
すばらしい力作。ダンボールで裏打ちして、額をデザインするのがぼくの役目。
うしろに日付と名前、年齢を書いてもらう。
「あれ、わたしいくつだったかしら?」
──94歳ですよ。
「あれ!そんなになったかいねー。びっくりしちゃうわ」
外は雨と風。静かなジャズピアノが流れる。