自分の一生におけるすべての行動が、いつも初体験で、前に体験したことと微妙な差異のあることを感じとり「今まで体験した中の最高だ」と、その新鮮な感覚を楽しむのである。
動きにおいて、立ち方、歩き方や、ぶら下げや逆立ち、どんな単純にみえる動きでも、何十年繰り返しやっていても、いつも新鮮な初体験の楽しさがある。
微妙なごくわずかな、ほんのちょっとした差異を感じとると、まったく別の世界が現れたような感じがする。これが豊かさの基礎感覚なんだ、という爽やかな実感である。
私は、意思が強いとか、よく努力するとか……そういうことよりも、いまここでやる、このことに対して、新鮮な興味をもつことのできる姿を、この上なく美しくすばらしいと感ずるのである。
……「野口体操 おもさに貞く」(野口三千三著、伯樹社刊)より。
ここで、野口さんが言われるように、歩く、立つ、止まる、坐るなど、暮らしの中で何十年と繰り返している行為が、いつも新鮮であること。微妙なほんのちょっとした差異が、いつも感じとれること。
いまここに対して、つねに新鮮な興味をもつことのできること。そして、その世界には際限がない。これで終わりという到達点がない。……それこそが、学ぶべき生き方の中核なんだろうなと思う。
野口さんのひらいた野口体操は、重さに耐えて筋力を鍛えるというようなものではない。わたしたちは、つねに力が入っている。いかに脱力するか、いかに身体の重さに任せるか、その体内感覚をあじわうか。そのことで、無理なく力や俊敏さを発揮する。
先日、東京の国立市で「田舎暮らし入門講座」を開催したところ、樹心社の亀岡社長がきてくださった。亀岡さんは、伯樹社に勤めていたとき、野口三千三さんや自然農法の福岡正信さんの「藁一本の革命」、橋本操体法なとを編集された。これらの本は、亀岡さんが、お話をテープにとって書き起こされた。
また先日、春野の町営の風呂で、内海さんと、野口体操について語りあったのだった。内海さんは、東京芸大の学生だったとき、野口三千三さんの講義を受けたいう貴重な体験がある。
そんな縁もあり、野口三千三さんの本を読み返している。「いま・ここ」感覚が述べられていて、ヨーガや瞑想、マインドフルネス、フェルデンクライス・メソッドなどにも通底していて、興味深い。