ハンセン氏病の詩人、桜井哲夫さんが亡くなった。この方とは直にお会いして、膝つきあわせてお話をお聞きしたことがある。いろいろな出会いがあるが、この桜井さんとの出会いはとりわけ強烈だった。
なにしろ、目も鼻もない。指もない、声も出ない。しぼりだすようなかすれ声。それを聞き分けて、通訳してくれる女性がお傍にいた。櫻井さんは、まったくの暗黒のなかにいると言う。しかしつねにユーモアがあって、まわりはいつも笑いに包まれる。こんな絶望的な暗闇のなかで、よくぞここまでの明るさと暖かさを示しておられるのかと感銘した。
桜井哲夫さんのことばから。「指を奪ったライに手を合わせ おじぎ草のようにおじぎした」「指の無い手で両親の涙を拭いた。岩木山の風景が盲目の目に映った」「里の道というのは、いのちの長さじゃないかなあ。だから、きらきら光っているよ」