「そう。もう7年前になるわね。くも膜下出血だったのよ」
───うわっ、それはたいへん。で、どんなふうに?
「その日は肩がこって、痛くてたまらない。突っ伏して寝ていたのよ。これはいけないと、自分で救急車を呼んでいるうちに、倒れたんです」
───で、だれが連絡してくれたんですか?
「さいわい、妹がいて、連絡してくれた。でも、救急車が他に出ていてすぐに行けないと」
───それはたいへん。で?
「〝息をしていますか〟していません。〝心臓は動いていますか〟動いていません。〝じゃあ、電話をスピーカにしてください。心臓マッサージしてください。やり方を教えます〟ということで、マッサージすると、心臓がやっと動き出した。それから救急車がきたんです」
───うわあ、死にかけた。
「そうなの。あのときたぶん死んでいたと思うの。それで浜松医大に搬送されたんです。医者は〝たぶん無理だと思います〟と身内の人に伝えた。それで家族は、葬式の準備をした。しかし、やがて生活反応が見られた。そして、蘇生したんですよ」
───そんなことあったんですか。
阿波おどりの練習にいくとき、すこし時間があったので、A洋品店に寄った。店主は80歳の女性。軽トラで行ったので、いらない端材を、薪ストーブ用にたくさんもらってきた。小さなミゼットアイロンとか、平均台になりそうな木の台とか。掘り出し物があった。その時の話をしたのだった。
───いちど死んだみたいなものですね。なにか、幽体離脱とか、光のトンネルとか、みえたりしましたか?
「そんなものはなかった。でも、‥‥そう。母が出てきたの、川の向こうに母親が。そして、こちらが川を渡っていこうとしたら、母が〝来るな来るな、戻れ戻れ〟と手で合図したのよ。それで、この世界に戻ってきたんだと思うわ」
───「三途の川っ」ていうけど、そういうのあるみたいですね。ところで、なにか宗教とか信仰とかもっておられましたっけ?
「そんなものはないわよ。〝わたしのなかに神がある〟それで生きてきたの」
───うん。それがいいね。ところで、きょう阿波踊りの稽古があるけど、いかない?
「きょうは無理だけど、踊りは大好き。風の盆とか郡上八幡の踊りとかよく言っていました。ぜひ、やりましょう。次回からは参加しますよ」
───もうこんな閉塞的な時代、踊るしかないですよね。
「そうそう。みんなで踊りましょう」