過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

百田尚樹の「永遠の0」から知る戦争の状況。ガダカナルの悲劇。

「立つことの出来る者は三十日、座ることの出来る者は三週間、寝たきりになった者は一週間、寝たまま小便する者は三日、ものを言わなくなった者は二日、まばたきしなくなった者は一日の命」
百田尚樹の「永遠の0」から知る戦争の状況。昨日に続いて。今回は、ガダカナルの悲劇。
----------------------
しかし結果は――話すのも辛いことですが、一木支隊は最初の夜襲で全滅しました。米軍の圧倒的火力の前に、日本軍の肉弾突撃はまったく通用しなかったのです。
日本陸軍の戦いの基本は銃剣突撃です。捨て身で敵陣に乗り込み、銃剣で敵兵を刺し殺して戦うという戦い方です。対する米軍は重砲、それに重機関銃軽機関銃です。米軍は日本兵に向かって砲弾を雨あられと降らせ、白兵突撃してくる日本兵に機関銃を撃ちまくりました。
こんな戦いで勝てるはずもありません。言うなれば日本軍は、長篠の戦い織田信長の鉄砲隊に挑んだ武田の騎馬軍団みたいなものでした。いったいなぜこんな愚かな作戦が実行されたのでしょう。参謀本部は何を考えていたのでしょう。戦国時代のような戦い方で米軍に勝てると判断した根拠がまったくわかりません。
(中略)
突撃した約八百人中七百七十七人が一夜にして死んだと言われています。一木隊長は軍旗を焼いて自決しました。米軍の死者は数えるほどだったといいます。
一木支隊全滅の報を受けて、大本営は「それじゃあ」と送り込む兵隊を一挙に五千人にしました。これならいけるだろうと。しかし米軍はその上をいっていました。日本軍を撃退はしましたが、今後、日本軍は前回にまさる兵力を送り込んでくるだろうと予想し、守備隊を一万八千人にまで増強していたのです。
大本営の参謀たちの作戦はまったく場当たり的なものでした。最初は敵の兵力がどれくらいのものなのか調べようともせず、都合よく推算して、千人足らずの支隊で行けるだろうと。それで駄目だとなると、今度は五千人なら行けるだろうという安易な発想。これは兵力の逐次投入と言ってもっとも避けなくてはいけない戦い方です。
大本営のエリート参謀はこんなイロハも知らなかったのです。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」というのは有名な孫子の兵法ですが、敵も知らずに戦おうというのですから、話になりません。
哀れなのはそんな場当たり的な作戦で、将棋の駒のように使われた兵隊たちです。二度目の攻撃でも日本軍はさんざんに打ち破られ、多くの兵隊がジャングルに逃げました。そんな彼らを今度は飢餓が襲います。
ガダルカナル島のことを「ガ島」とも呼びますが、しばしば「餓島」と書かれることがあるのはそのためです。この後、大本営は兵力の逐次投入を繰り返し、その多くの兵士たちが、飢えに苦しめられます。そして戦闘ではなく餓えで死んでいきます。
「ガ島」の兵士たちはこんな生命判断を行っていたと言われています。「立つことの出来る者は三十日、座ることの出来る者は三週間、寝たきりになった者は一週間、寝たまま小便する者は三日、ものを言わなくなった者は二日、まばたきしなくなった者は一日の命」と。
結局、総計で三万人以上の兵士を投入し、二万人の兵士がこの島で命を失いました。二万のうち戦闘で亡くなった者は五千人です。残りは飢えて亡くなったのです。生きている兵士の体にウジがわいたそうです。いかに悲惨な状況だったかおわかりでしょう。
ちなみに日本軍が「飢え」で苦しんだ作戦は他にもあります。ニューギニアでも、レイテでも、ルソンでも、インパールでも、何万人という将兵が飢えで死んでいったのです。
なぜ飢えるか、ですか。軍が食糧を用意しないからです。
日本陸軍は作戦計画にあるだけの食糧しか用意せずに兵士を戦場に送り込むのです。作戦計画の日数とは、つまりその日数で敵陣を奪い、その後の食糧はその陣地で奪えばいいし、また敵陣を乗っ取れば、その後から食糧は補充するという考え方です。
食糧のない兵士たちはあとがないだけに死に物狂いで戦うだろうと踏んでいたのでしょうか。一木支隊のあとに送り込まれた川口支隊の兵隊たちは米軍の食糧を「ルーズベルト給与」と呼んで、それを当てにしていたといいます。
しかし戦争はそう簡単に計画通りにはいきません。事実、今言った多くの戦場では、敵陣を撃滅するどころか自分たちの部隊が粉砕されて、その後、ジャングルで飢えとの戦いが始まりました。兵站は戦いの基本です。
兵站というのは、軍隊の食糧や弾薬の補給のことです。戦国時代の武将たちが戦で最も重要視したのが兵站だそうです。
ところが大本営の参謀たちはそんなことさえ考えなかったのです。彼らは皆、陸軍大学をトップクラスで出た超秀才です。当時の陸大のトップクラスは東大法学部のトップクラスにひけを取らなかったでしょう。
こうしてガダルカナルに三万人という将兵が孤立して取り残されたわけですが、それらの将兵を見殺しにするわけにはいきません。海軍は多くの艦艇を出して、ガダルカナルに弾薬や食糧を補給する任務を担いましたが、脚の遅い輸送船は島に近づく前にガダルカナルの敵飛行場からやってくる航空機の攻撃で沈められました。
--------------------
永遠の0」(百田尚樹著)より