生きがい特派員というのを、ボランティアでやっていて、軽度認知症から脱却した人の取材をしている。なんとも時間が取れなくて、まだ訪ねていない。
とはいうものの、締切が近い。さてどうするか。ネットと電話であらかた聞いて原稿にして、あとは写真撮りのためにお訪ねすることにした。
以下、荒原稿。
現在、日本では、認知症患者は462万人いるといわれます(2014年 厚労省)。65才以上の高齢者の7人に1人が認知症、その予備軍は400万人にもなります。
「まだ若いから、大丈夫」と思っていても、安心はできません。認知症の原因となる脳の変化は、発症する数十年前から始まっているのです。気づく頃には、もうかなり進んでいることもあります。
けれども、軽度認知障害(認知症の一歩手前=MCI)の段階で予防策を講じれば、認知症への移行を遅らせたり、正常に戻すことができます。
Mさん(76歳、浜松市北区細江町)は、そのことを自ら実証されました。
Mさんが「おや、感覚がおかしいぞ」と気づいたのは、6年前のことです。車のバック駐車ができなくなったのです。妻からも、近頃ヘンな言動をすることが多くなったと言われました。
医師(早期認知症研究所)に診てもらうと、「脳の海馬が萎縮している。車の運転は、すぐにやめなさい」と言われました。
───ああ、自分はついに認知症になったのか。
そう思うと、絶望的になりました。夜も眠れません。軽いウツにもなりました。
Mさんは、それまでの生き方を見直しました。
認知症の予防には、脳細胞の新しい回路を作ることが大切。楽しい体験によって、脳細胞のシナプスが新しい回路がつくられる。脳と体を使うことがいいと教えられました。
まず、妻との毎日の散歩です。自然の豊かな野山を歩き、花を愛で、鳥の鳴く声や、川のせせらぎを楽しむ。日記もかかさずつけます。俳句もはじめました。
脳トレや太極拳も始めました。囲碁は、上達を確認しながら段位を取るという目標に向けて、励んでいきました。「健康吹き矢」は、集中力を高め、肺の活性につながります。フォークダンスや「童謡を歌う会」も通いました。
4年前に、妻が友人と認知症予防教室「ニコニコ会」を立ち上げてくれました。Mさんは、音楽の教師をしていたので、いろいろな楽器が演奏できます。アコーディオンを弾き、友人がオカリナを吹きます。みんなで歌や脳トレやクイズ、体操やストレッチも行います。
こうして、いろいろなことにチャレンジしていきました。
その結果、1年後には医師から「テストは満点です。車の運転を再開してもいい」と言われたのです。涙がでるほど嬉しくて妻と喜びました。
現在は、妻とともに「遊びの玉手箱」を主宰しています。絵人形が仕掛けによって、驚くような動きをみせるパネルシアターを中心に、ゲーム・歌・踊り・腹話術、手品・クラフトなどを実演しています。
浜松市内、さらには御殿場や島田市にもよばれて、保育園、小学校や老人会などで公演に行きます。「ニコニコ会」も、会員は50名以上に増えていき、月に一度、開催しています。
「けっしてあきらめない。なにごとも興味をもって挑戦。よく笑って、人と人との交流を大切に」。そのようにMさんは語りました。
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軽度認知症というのは、まったく他人事じゃない。
あれれ? おかしくなってきたかな、という人はじつはまわりにけっこういる。
そういう人たちのネットワーク、心が躍動するような語り合いの場、創作の場、土と自然の触れる場作りというのが、もとめられると感じる。