過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

トラウマとシマヘビ

───おかあちゃんは、自分のおかあちゃんから言われたことがトラウマになっているんだって。

「え、どんなこと?

───「絵はきちんと描かなくちゃいけない。はみだしちゃいけない」。自由に踊ったりしていると、「きちんとしなくちゃいけない。そんな踊じゃみっともない」
そう言われて、絵も描けなくなったし、自由に踊れなくなった。歌も人前で歌わなくなった。それがおかあちゃんの〝トラウマ〟だってさ。
  ▽
それを聞いたあかり、「トラウマって?」

───心の傷ってことだね。それがずっと残っていて、その後の人生に影響を与える。

「だったら、あかりもトラウマがあるよ」

───ええ!トラウマだって。それはなに?

「ほら、こないだシマヘビに噛まれたでしょう。あれ痛くて怖かった」
  ▽
───そうだったね。何匹かのシマヘビをつかんでいた男の子がいた。「可愛い」と言って触ったら、ヘビに噛まれたんだね。でも、そんなのトラウマじゃなくて、すごく自慢できることだよ。

「どうして?」

───だって、シマヘビに噛まれた女の子になんて、日本に何人もいないよ。すくなくとも浜松市では、あかりくらいだよ。大いに自慢していい。

「そうか。でも、あのとき、噛まれた時、びっくりして指をすぐに引っ込めたので、バキッて音がして、シマヘビの牙が折れたよね」

───そうだったね。シマヘビさん、牙が折れてかわいそうだったね。あかりも貴重な体験をしたもんだ。