猛烈に忙しい人の取材の場合もある。
まったく忙しいと断られる。そういう時、こういう方法がある。
──こちらで予め原稿は作っておきますので、それを見ていただけますか。
「じゃあ、送ってください」
ネットの情報を本にちゃちゃっと原稿を作った。あたかも問答しているようなかたちの原稿にした。それをメールで送った。
そうしたら「取材時間は10分でよければ」というご返事。
それで、名古屋まで取材にでかけた。
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柏木哲夫先生。日本でのホスピスの草分けの方だ。大阪の淀川キリスト教病院理事長、40年間にわたって2500人以上を看取ってきたホスピスや緩和ケアの草分けだ。当時は、大阪大学名誉を経て、名古屋の金城大学の学長になられたばかり。
約束の時間にお訪ねする。
「ああ、さすがです。いちども会ったこと無いのに、あそこまで原稿にしたのはびっくりしました。原稿はあのままで結構です」
ということで、写真撮りとすこし他愛のないおしゃべりだけ。
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印象に残ったのは「矢先症候群」
ホスピスの平均滞在日数は何ヶ月。多くの患者と接していて感じるのは、さあこれから、というときに倒れる。定年になって、さあこれから妻と二人で温泉にでも行こうかと思っていた矢先にガンで倒れた。
定年になったらこれをしよう、子離れしたら、これがおわったら、あれが済んだら……というふうに、人は考える。でも、それが終わっても、次の忙しい用事が訪れる。また次の課題がやってくる。で、結局は、思うようにはならない。そうこうしているうちに、死が訪れてしまう。
みんな生の延長線上に死があると思っているけれども、人はつねに死を背負っているのだ。
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たいせつなのは今日一日。いまここ。きょう一日、かしこくしっかりと生きよう、と。あれこれと手間がかかる、いろいろと面倒で忙しい。その一日一日を賢く、やれることをやっておくしかない。
だいたい滞在時間は30分であった。雪の降る道、友人のY氏の家に寄ってから名古屋駅まで帰った。