過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

ドーベルマンーけしかけて「買え」と脅された

店の主人は、ドーベルマンを連れてきた。

かしこい犬で、彼が犬に脅せというと、ゔゔーーーと歯をむき出して襲いかかろうとする。

「どうだ。買わなければ、この犬に襲わせるぞ」

ううむ。巨大なドーベルマンだ。怖い。かなわない。

   ▽

インドでは、ドル札があればルピーに交換してもらえる。銀行で両替すると時間がかかる。なので、いつも闇の両替屋を利用した。

当時は日本人と見ると、両替屋が寄ってくる。「ドル交換しないか。ウォークマン売らないか。ハシシ買わないか」とかならず言われる。30年前の話だ。

闇の両替屋は便利だ。銀行よりも高値ですぐに交換してくれる。

だがこれ、リスクがある。

なにしろ奥まったビルのなかでの両替だから。

「まあ、チャーイでも」。それを飲んで、気がついたら身ぐるみ剥がされたなんて話も聞く。

  ▽

ヴァラナシ(ベナレス)で両替しようとした時のことだ。少年が案内してくれた。ヴァラナシは道が狭くて入り組んでいる。よく強盗などに遭うともきく。

おそるおそるついていった。

そこは、サリー屋だった。

両替を済まして帰ろうとすると、店の主人が「待て」という。

「サリーを見ていかないか」

──そんなものはいらない。買わない。

しかし、彼は次から次へとサリーの生地を広げてみせる。

ヴァラナシはシルクで有名なところで、シルクのサリーはよく売れる。色も美しい。

普通の日本人だと、次々とシルクを広げられたら、一枚くらい買わなくちゃと思うかもしれない。だが、ぼくは「そんなものはいらない」とはねつけた。

  ▽

そのときにドーベルマンをけしかけられたのだった。

逃げられないし、逃げるのは癪だ。

どうしたらいいか。どうしたものか。

そこで、まずは落ち着いて、店の主人と雑談をすることにした。インド人は暇というか話は好きだ。よもやま話をする。

すると、ドーベルマンは、主人の友人と思ったのだろう、威嚇しなくなってきた。

それで、店の主人と親しくなり、ドーベルマンもなれてきて頭をなでたりした。一緒に記念写真もしたのであった。まあ、ともあれヴァラナシの狭い路地は要注意。