過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

阿多古川でカヤック

「阿多古川に行こうよぉ」と毎日あかりに急かされる。

──おとうちゃんは、いろいろ仕事があって忙しいんだからね。近くの気田川じゃダメなの?

「だめ。阿多古川のほうが、断然、水がきれいなんだもの」

たしかにそうだ。気田川は流れが強い上に、雨が降ればすぐに泥で濁る。阿多古川は、いつも水が澄んでいる。水面から底の石が見える。

──しかたないなあ、じゃあ行こうか。泳げる夏も今のうちだからね。
  ▽
ということで、カヤックを積んででかけた。

カヤックを漕いていると、「あかりちゃんだ!」と声がかかる。あかりはFacebookにいつも写真に登場しているので、それとすぐるわかるみたいだ。

テトラポットの上から見ると、鮎なのか鱒なのかわからないが、魚が何千匹と泳いでいるのよく見える。
(あかりの絵1枚目)

───さて、きょうは川下りに挑戦するぞ。少し怖いよ。

「おとうちゃん、大丈夫?」

──転覆すると思うよ。でもあかりは、ライフジャケット着ているから大丈夫だよ。

それで、川下り。波が大きくゆれる。なかなかのアドベンチャー
やはり波の強いときには、船の制御ができなくて転覆。

あかりはライフジャケットで浮かんだ。おとうちゃんは水の中。
(そのときのあかりの絵2枚目)

そこから、船とパドルを掴んで、引っくり返して這い上がるのはなかなか難しいよ。

それともうひとつ、帰りはまた川をさかのぼっていかなくちゃいけない。カヤックを背負ったりしながら川を歩く。ああ、疲れた。一休み。
  ▽
そこではお父さんと子ども二人が和やかに泳いでいる。
声をかけると、愛想が良い。4つの子と小4だという。

───うちのは8つですけど、小さなお子さんは4つですか。とても大きくてしっかりしていますね。

「そう、大きいほう。武術も習わせているんですよ」

──へえ、それは興味ありますね。どんな武術ですか。

「うちは、徳川幕府の武術の指南役を務めた家系でしてね」

──それはすごい。柳生新陰流とか、ですか。

「その流れではなくて、どちらかというと家康の伊賀越えの先に護衛した服部半蔵の系譜なんですよ」
  ▽
──ますます、興味ありますね。忍術みたいなコース、春野町でも教えてもらいたいなあ。いまちょうど、大東流合気柔術をならっているんですよ」

「そうですか。なにしろ、武術というのは、スポーツじゃなくて、殺し合いが主眼ですから、剣を奪われたら投げ技。ときに手裏剣。石つぶて。なんでもありですよ。

──それは、おもしろそうです。忍術コース、海外からも参加者がやってきそうですよ。ぼくも、五寸釘をロケッストーブで1,000度くらいに熱して叩いて鍛錬して磨いて研いで「クナイ」(忍者が使用した両刃の道具)をつくるつもりです。それで、立てかけた畳に向かって投げるようなワークショップ、してみたいんですよ。
  ▽
そんな話で盛り上がったのだった。

まあ、出かけてみると思いがけない出会いがある。そのとき、何気な話から一歩踏み込んでいく、というところがも秘訣ではある。

いろいろおもしろい話かあるんだけど、双方ともに子どもが「はやくいこうよ」と急かす。大人ばかりの話ではつまらないからね。そこで、中断。

──「人生は一期一会」この瞬間はもう来ない。また会えるかどうかもわからない。だから、とっても貴重なんだよ。

そんなこと言ったって子どもは聞かない。はいはい。ではまたねと別れたのであった。