「死にそうだった」じゃなくて、「死ぬところだった」。
もう夏も終わりだから、気田川下りをしようと12年ぶりに思い立ったのだった。せっかく気田川のそばに暮らしているし、カヤックもあるのだから。
気田川下りは、この12年で2回しかやったことはない。しかも、単独は初めてだ。
──なあに、なんとかなるだろう。
阿多古川と気田川ではワケがちがう。しかも昨日の雨で水量は豊富、流れは速い。せっせと漕がなくても、すいすいと進む。ああ、いい気分だ。
▽
200メートルくらい漕いだだろうか。
川がカーブするところに巨大な倒木があった。
うわっ、このままいくと、木に当たるかな。
なあに、うまくすり抜けられる。そうタカをくくっていた。
ところがだ。岩ならぶつかっても船は流れる。木だと、そうはいかなかった。
巨大な木の枝と根っこに吸い込まれるように入ってしまった。
水圧がものすごい。ゴムホースの水を遠くに飛ばそうとして、先っぽを握ると水圧が強くなるようなものだ。それを身をもって体験した。
あっけなく船は沈没。川に投げ出される。パドルは落ちてしまう。
その後、どこがどうなったかよくわからない。木の下に吸い込まれて潜ったり浮かんだり、また潜ったり。頭が木にぼこぼこと当たる。さいわいヘルメットをしていた。
なんとか、浮かび上がって脱出できた。
しかし、船は流されていく。泳いでも追いつけない。追いついたとしてもパドルが行方不明で、船は操作できないのだが。
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岩に足がぶつかったりして、痛いしもう疲れた。もはや船はあきらめた。ヘロヘロになって岸を歩いていた。さて、ここからどうやって帰るか。
すると、200メートルくらい先にトッシーたちのSUPのグループがいた。船をキャッチしてくれた。助かった。
「こんな水量の多いとき、初心者が一人で漕いだら危険だよ。それにしても、あの木の下をよく通り抜けたね。倒木、流木、テトラポッド(消波ブロック)があるところは危険だよ」
トッシーがそう教えてくれた。彼は気田川でカヤックスクールを開いて18年になる大先達だ。
九死に一生というのか、いのちびろいをした一日であった。