過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

五味太郎さん「コロナ前は安定してた?」不安定との向き合い方

五味太郎さん「コロナ前は安定してた?」不安定との向き合い方
朝日新聞のインタビューの五味太郎さんの語りが素晴らしいので一部、紹介。
語りがとてもいい。そして、記者のまとめ方もうまいなぁ。
「色んなことの本質が露呈されちゃってる」
ーー今日は、新型コロナで大人がずっと不安定でギスギスしたりオドオドしたりで、子どもも居心地が悪いなか、子どもたちに直接何か届けられないかと思い、うかがいました。
はい、一緒に考えましょう。それで、まず聞くけど、逆にその前は安定してた? コロナ禍じゃなかったときは、居心地がよかった?
ーーぎくっ。
そうでしょ。普段から感じてる不安が、ひるがえってコロナに移っているだけじゃないかな。もっと言えば、不安とか不安定こそが生きてるってことじゃないかな。
不安? 不安定? それこそが…
心っていう漢字って、パラパラしてていいと思わない? 先人の感性はキュートだな。心は乱れて当たり前。常に揺れ動いて変わる。不安定だからこそよく考える。逆に、「揺るぎない考え方」って死んでるってことじゃないかな。安心・安全を前提にするから、不安をマイナスに感じるし、人間を機械のように見てしまう。AIをやる人はそれを目指しているのかもしれないけど。
『じょうぶな頭とかしこい体になるために』という本を書いたことがあるけど、今みたいな時期こそ、自分で考える頭と、敏感で時折きちんとサボれる体が必要だと思う。戦後ずーっと「じょうぶな体」がいいと言われてきたけど、それはつまり、働かされちゃう体。「かしこい頭」っていうのは、うまく世の中と付き合いすぎちゃう頭で、きりがないし、いざという時に弱い。
今は本当に考える時期
ーー新型コロナがはやって、お仕事に変化は?
出る予定だったイタリアやメキシコのブックフェアは中止になりそう。楽しみにしてた野球大会も、公園封鎖でできなくなった。
でも、今広がってるテレワークは、元々おれも、仕事相手のデザイナーも編集者も、毎日やってること。どんどん広げていけばいいと思う。
いまは、ある意味、本当に考える時期。今回、うちにいたくないから職場に行くってやつが結構多いというのもわかったけど(笑)、それならその家の状況ってどうなのとか、考えるよね。
働き方も国会も学校も、色んなことの本質が露呈されちゃってる。五輪の延期も、オリンピックより人の命って結構大事なんだなとやっと再確認したんだろうし(笑)、優先順位がはっきりしてくる。
どこも金融の話ばかりで
ーー毎日、刻々と変わる世界を、どう見ていますか。
感染者が何人、何%、株価がどう、とニュースで急カーブのグラフばかり見せられても正直よくわからない。金融の話ばかりで。グローバルグローバルって言っても、心でグローバルしてたんじゃなくてお金がグローバルしてただけなんだなとしみじみ思うよね。
こうなると、世界の全体像は誰もわからない。でも、これをなかったことにはできないんだから、乗りこえていくというより、前よりよくしましょうよ。
むしろおれ、ガキたちにはこれがチャンスだぞって言いたいな。心も日常生活も、乱れるがゆえのチャンス。
ーーチャンス?
だって、仕事も学校も、ある意味でいま枠組みが崩壊しているから、ふだんの何がつまんなかったのか、本当は何がしたいのか、ニュートラルに問いやすいときじゃない。実はコロナ禍がないときこそチャンスに満ち満ちているんだけど。今は幸か不幸か、時間が余っているんだから。
子どもに失礼な学校、社会
ーー親も子も、一斉休校→再開→やっぱりやめるかも、と政府や自治体の判断に振り回されています。
一斉休校は突然で横並びで、よくなかったとは思う。やっぱり日本人って、誰かが命令してくれるのを待ってるよね。その方が楽というか、やりやすいのかな。
でも、こういう時っていつも「早く元に戻ればいい」って言われがちだけど、じゃあ戻ったその当時って本当に充実してたの? 本当にコロナ前に戻りたい?と問うてみたい。戻すってことは、子どもに失礼な形の学校や社会に戻すってことだから。
どんなにまずい寿司屋でも…
ーー子どもに失礼、というのは?
たとえば義務教育って言うけど、子どもにとっては教育って義務じゃなく「権利」だと憲法に書いてある。
でも、6歳になったら必ず小学校に行く、他に選択肢がないんだもの。しかも(公立なら)学校も先生も選べない。どんなにまずくても、○丁目の人は全員この寿司屋しか行っちゃだめと決められているようなもの。
僕の娘は2人とも途中で学校に行くのをやめたけど、学校というタイプに向いてる子と向いてない子、あるいはどっちでもいい子がいる。
おれは初等教育のプログラムって、ほとんどが「大きなお世話」だと思う。人格形成とか学習能力とか……。もちろん、誰も悪意でやってるわけじゃないんだけど、全員座ってじっと先生の話を聞くって、子どもの体質には合ってない。そこで栄養がとれて健康が管理できれば十分だと思うし、やりたいこと・わからないことがあったら聞ければいいと思うから。
この取材と矛盾しちゃうけど、人の話なんて一方的にずっと聞いていちゃだめだよ(笑)
熱いお風呂、なぜがまん?
ーー新型コロナウイルスによって、学校が一斉休校になり、これまで「当たり前」だったことが崩れています。でも、そのコロナ前の「当たり前」の社会が、子どもにとって良い社会だったのかと、五味さんは問いかけています。五味さんの娘さん2人は、途中から学校に行かない選択をされていますね。
学校に行きたくない子どもに親が行きなさいというのは、子どもが「お風呂が熱い」って言ってるのに、親が「肩までつかって100まで数えなさい」というようなもので、人類は進化してるはずなのに、いまだに根拠のない根性論が……。
根性論が……。
ーー「お風呂が熱い」と思っても、私も含め、素直に「熱いから出よう」と言える大人がまれな気がします。
熱さに意味はないけど、この熱さに耐えれば卒業証書、修了証書、そして退職金……と続いていく。で、疲れちゃって、考えるのをやめていく。考えるのって面白いはずなのに。それを繰り返してるうちに、自分が何がしたいかわからなくなっちゃってる。誰かに見てもらって点数つけてもらって休みもお金ももらう。おれは「学校化社会」って名づけたよ。
仕事は体を使ってするもので、しんどい・しんどくないは体で判断すればいいのに、その素直な感覚を無視してしまう。
この社会の不安って、好きなことで仕事をやってる人がとても少ないこと。「好きなことで食べていくなんて甘いよ」なんて子どもの頃に言われちゃうこともあるのかな。
おれ、もしかしたら異常かもしれない。起きて絵の続き描くのも、色塗るのも、大変だけど、毎日わくわくする。わくわくしながら仕事に行ってる人ってどれぐらいいるのかな。
親がやりがちなミス
ーー学校が休みになり子どもと過ごす時間が増えた人が多くなりました。子どもの邪魔をしないように、大人が気をつけることって何でしょうか。
それを問う以前に、つくづくこの社会には、子どもに人権なんてものはないなと思ってる。
たとえば、子どもが絵を描いてるわきに行って「なに描いてるの?上手ね」なんて言うのは失礼なことだとおれは思う。それはその子が描いてる絵なんだから。ピカソに対してはそう言わないでしょう。いっぱい来られると子どもはめんどくさくなって、「お花、かわいいわね」と言われたりして、ウケるものを描いてしまう。大人がやりがちなミスです。ガキに「礼儀正しく」という割にはガキに礼儀正しくない。
子どもの「そんたく」、切ない
ーーなぜミスしてしまうんでしょう?
大人の未完成度じゃないかな。自分の完成度がここまでだと思えば、後ろを振り向くんだよね。そうすると、不幸なことに、幼いガキがいる。無意識に、自分の大きな空白をそれで埋めようとする。
今の親たちはすごく子どもに向かってる。子どもに対する責任が社会的に親に持たされちゃってるから。子どもの幸せを考えているよね。でもそれはやっぱり甘いんだと思う。だって、そいつらはそいつらなんだもの。
子どもは子どもで、親を一生懸命「そんたく」しちゃう生き物。命がまだ弱いから、先生やお母さんお父さんに喜んでほしいと反射的に顔色を見る。
ーー切ないです。
うん。だから、親は、そうさせないようにがんばんなくちゃいけない。
「この前ガルシア=マルケスを読んでて、自分の父親のことを考えるとき自分の息子のように感じることがある、みたいな一節があって、おれも亡くなった親父のこと考えるとき、ほんとにそうだなーってしみじみしたよ」=北村玲奈撮影
十分悩みましょうよ
ーー一斉休校や外出自粛など、これまで自由だったことができない状況が生まれていますが、コロナウイルス前から、子どもたちの選択肢を大人が阻んでいたのでしょうか?
それは違うと思う。自由なんてのは存在しなくて、あると思うから不自由を意識しちゃう。誰でも引力や天気にあらがって生きてるわけだし、鳥は自由でいいななんて言うのは、鳥の大変さ、不自由さをわかってない人。不自由なのは前提だもん。限られた材料や選択肢の中で、悩むしかない。大人も子どもも。これを機に、十分悩みましょうよ。
人生って自分の居場所を見つけることかも、って娘が言ってたけど、こればかりは子どもも大人も自分で見つけるしかない。
子どもにばんばん相談を
ーー親個人ができることってないでしょうか。
一つ、知恵としては、子どもにもばんばん相談すること。
だいぶ前のことだけど、ある女性から「夫とうまくってないんだけど、子どものために別れられない」と相談を受けて、「それ、自分のためでしょ。子どもに相談した?」と聞いたら、してない、って。それで彼女が中高生の息子に相談したら、「早く言えよ~」って言われて、拍子抜けしたそうです。で、別居してそれぞれ会いに行ってもらうことにしたそうで、ずっと悩んでたのはなんだったんだろうって。
親はガキより立派でも強くもないし、むしろ弱いぐらいなんだから、それを認めて、一人の人間として相談したらいいんじゃないかな。