過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

田舎暮らしの移住者というのは、血縁つながりの集落に、なんのゆかりもない人がいきなりパラシュートで落下したようなもの

薪ストーブでコーヒーの生豆を焙煎していると、近所のIさん(80歳)がやってきて、立ち話となる。
「あんたはいいなあ。あれもこれもと、やることがたくさんあって」
──正月から、やることが山ほどあって、まったくおわんないんですよ。
「おれなんか、きょう何するかなあ、どこにいくかなあ、と。ヒマで仕方がないんだよ」
──そういう人、多いですよね。でも、Iさんは、ほたる公園を無償で整備してくれたり、ホタルの餌のカワニナを遠くからさがして運んだり、地域の野球部のピッチャーやったり、デイサービスに慰問したり、門松作ったり、すごいじゃありませんか。こんど、うちの施設でどじょうすくいの芸とハーモニカ演奏やってくださいよ。
「まあ、そのうち行くよ」
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ということで、ついでに施設をみてもらい、今後の計画など、語り合ったのだった。
Iさんは、別の介護施設で送迎の仕事を数年やったことがあるので、デイサービスの事情はよくわかっている。
「この仕事は、安定すれば損はしないけれど、けっして儲かるという仕事じゃないなあ」。
──そのとおりですね。つくづく感じます。国の医療費削減の政策もあって、どんどんと絞られていくわけですし。まあ、かろうじて食っていけるかというカツカツの程度をねらいます。無理しないで、細く長く続けば、と思っていますよ。
「ところで、利用者の要介護度はどれくらいの人がきているのかね?」……というような話が進む。
地元の人だから、いろいろ人の背景がよくわかっている。「実はね……」というところが、たくさんある。
ぼくも、この10年でネットワークを作ってきたので、人と人のつながりは、少しは分かってきているが。
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「おお、あんたは、そこまで知っているのかい。でもね、気をつけなくちゃいけないのは、その人をたどっていくと、ほとんどが、親戚、血縁関係ということだ。だから、人の悪口とか言ったりすると、すぐに伝わるからね。そこは、重々気をつけなくちゃいけないよ」
そういうアドバイスを受けたのだった。
この人は、あそこの出身で、きょうだいはあちらに嫁に行って、その子が○○さんで、それであの人とはこういう関係で……と、山里というのは、ほとんどがつながっている。
そこが、田舎暮らしの注意すべき点だ。悪くいうと、血縁だけをたいせつにして、それ以外の人はサポートしないというところもある。そのあたりがいわば、地域の「閉鎖性」で、田舎暮らしのひとつの障壁ともなる。
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で、田舎暮らしの移住者というのは、血縁つながりの集落に、なんのゆかりもない人がいきなりパラシュートで落下したようなものだ。
だから、うまくいく場合もあるし、「こんなはずではなかった」ということもある。ずっと転校生、よそ者扱いだし。そのあたりは、その人の持っているキャラ、力量、コミュニケーション能力次第でもある。さらには、運の善し悪しもある。
ポイントとなる人と出会い、うまく段取りしてもらい、つなげてくれるとやりやすいってこともある。
そうして、地域にきちんと信頼を得られれば、口コミでうまくいく可能性も十分にあるわけだ。とくに、こうした地域密着型のデイサービスは、利用者とその家族の口コミの力が大きいかなあ。