過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

高橋源一郎の人生相談から

なかなか深くておもしろい。高橋源一郎の人生相談(二人の人に対しての回答)
わたしの周りでも、何人もの、近しい人たちが、自ら死を選びました。
そのたびに、考えたのです。いったいなぜ、彼らは死を選ばなければならなかったのか。
答えはないのだと思いました。きっかけはあったかもしれない。でも、確固とした理由は、彼らにもわからなかったような気がします。
「死」が、暗く冷たいなにかが、「闇」が彼らを抱きしめた。「闇」に抱きしめられることを無上の安らぎと感じるほどに、彼らは、疲れ、傷ついていたのかもしれません。
そう思うようになって、決めたことがあります。現実の前で、わたしは無力だった。
「闇」から、彼らを引き戻すことができなかった。だから、せめて、少しでもいいから、「生」に、「光」のほうに振り向いてもらえるような「ことば」の作り手になりたい。
お母さん。悲しんではなりません。自分を責めてもいけません。それが生き残った者の責務だからです。彼を奪い去っていった「闇」ではなく、あなたは、「光」の側に立たなければならない。こう思ってください。
「わたしのところに来てくれてありがとう。短い時間だったけれど、幸せだった。今度会うことがあったら、抱きしめさせて」と。
彼を二度死なせてはならない。あなたの記憶の「光」の中で、生き続けさせてください。そして、あなた自身もまた、「光」の中で生きてくださるように。
  ▽
こんな話を聞いたことがあります(実話です)。
Aさんは有名な芸術家(詳しくは書けませんが)でカッコよく、高齢になるまでたいへんモテて、奥さんに知られぬように幾人もの愛人(多くは「クリエーター」だったそうです............)を作りました。
晩年、Aさんは体を悪くし、寝たきりになりましたが、奥さんは、この人の世話はわたしがするからといって、他人の手は借りず、ひとりで世話をしました。
そして、動けなくなったAさんの耳もとで「あんたのやったことは全部知ってたわよ。いい気なもんよね。なあにが、クリエーターよ。なあにが芸術家よ。お互いに理解し合ってるって?気持ちワル!いい気なもんよね。
人をバカにするのもほどがあるわよ。これからずっとあなたがやってきたことを教えてあげるから」と、毎日何時間も、Aさんが死ぬまで、ささやき続けたそうです。
Aさんが気の毒だと思いますか?ぼくは、そこまで追いつめられたAさんの妻のほうが気の毒だと思いますが。
そういうわけで、あなたが、Aさんのような目にあわれても、申し訳ありませんがわたしとしては同情できかねます。っていうか、あなたほんとに悩んでます?
その77歳の方との恋愛の心配をするより、ご自分の晩年の心配をしたほうがいいんじゃないでしょうか。でも、もう遅いかもしれませんけど。
『居場所がないのがつらいです』(高橋源一郎著 毎日新聞出版)から