過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

早起きして薪ストーブ、それから朝風呂だ。

「おとうちゃん、まるで紙のお葬式みたいだね。」
──そうだね。お葬式。お焚き上げ。天にお返しする。そして、土に還る。

あかりと一緒に、風呂焚きだ。土間にある外風呂で、焚き火みたいに温まる。
たくさんある書類をどさっと段ボール箱に入れてある。ひとつ一つ確認しながら燃やしていく。書類の整理と処分、そして風呂焚きができるというわけだ。

ひとつひとつ完了していくので気分がいいんだ。むかしの領収書とか報告書とか、裁判の準備書面とかバンバン燃やしていく。燃やしたら二度と戻ってこないので、最後の儀式のようなものだ。まさにお葬式。お焚き上げ。火の儀式。護摩
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──あれ、これは『黎明』という本を書いた親友の葦原瑞穂(永留祥男)さんからの手紙だ。”原稿はまだ半分、これから書いていきます”とある。もう死んじゃったから、これは貴重だ。残しておこう。

「おとうちゃんと友だちなの?」
──そうだよ。この人は清里に暮らしていて20年間、まったく働いたことがない。でも、訪ねる人に心からの接待をする。それで、みんながいろいろ持ってくる。それでうまく循環して暮らしていけたんだよ。東京に来るときには、いつもうちに滞在してた。

うちに来るなり「池谷さん、きょうは和食がいいですか、洋食、それとも中華?」と聞く。「じゃあ、洋食に」というと、うちの冷蔵庫にあるもので適当に料理してくれた。それが、とても美味しかった。また、コーヒーの腕前はプロだったよ。

「不思議な人だね。」
──うん。とても不思議な人。『黎明』という本を書いたら、じわじわと売れだして、スピ系ではバイブルみたいに思われた時期があった。それで、いよいよ外部で講演の依頼が来たり、スピリチュアルツアーが始まるっていう矢先に、交通事故で死んでしまったんだ。

「そうなんだ。ざんねんだったね。
 
──「矢先」に亡くなる人が多いね。さあやるぞ、いよいよこれからという矢先に亡くなってしまう。おとうちゃんは、いつも「矢先」だよ。日々「矢先」だ。
 ▽
あ、これはあかりの描いた貴重な絵だ。これはとっておこうね。

そんなこんなで、書類を焼いているだけで、もう風呂が沸いてしまった。
さっそくあかりと入る。
「おとうちゃん温かいね。気持ちがいいね」

温まったら、あかりは部屋に戻る。すると、しばらくしてまた戻ってきた。
「寒くなったから、また温まるんだ。おとうちゃん、どうしてこの風呂は温かいの?」

──それはね、遠赤外線効果と言ってね。薪で焚くと遠赤外線がでるんだ。身体の細胞内部の水分子と共振・共鳴するんだね。それらが血液(水分)に乗って身体全体まで効率よく伝わる。それで、身体の芯まで温まって湯冷めしないんだよ。こうして、薪の風呂、それから薪ストーブなんか、遠赤外線が出て、体の芯からじわっと温まるんだ。

「また、明日も朝から沸かそうね」
──そうだね。早起きして薪ストーブ、それから朝風呂だ。あかりはいいなあ、毎日が日曜日で。