「おとうちゃん。寒いね。ドラム缶風呂に入ろうよ」
──もう疲れたし、寒いし、いやだなあ。それにお風呂はすぐには沸かないんだよ。
「わかってるよ。だから、焚き火して温まっていればいいじゃん」
──う〜ん。焚き火ねえ。あかりが団扇であおいでくれるなら、やってもいいけど。
「うん。やろうやろう」
仕方ない。押し切られてドラム缶風呂に火をつけた。焚き火をたのしみながら湯を沸かすことになる。自作のU字溝を使ったロケットストーブ方式なので、煙突から炎が吹き出てくるほどだ。3枚目の写真。
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薪が燃えるのを見ていると、もうそれだけで心豊かになる。火の力はすごい。
「おとうちゃん、あたたかいね。どうしてなの?」
──それはね、薪で燃やすと遠赤外線が出るためなんだよ。
「赤外線って?」
──電磁波のひとつ。目に見える光よりも波長が長いんだ。で、それは熱をよく伝えるんで、体の芯までじわっと届くんだよ。
「こうやって手で顔を遮ると、顔には熱さがこない。それはどうして?」
──それはね、赤外線という電磁波が届かないからだよ。赤外線は皮膚の分子を振動させて熱を持たせるんだ。だから、遮られると熱にならないんだ。ほら、団扇だって顔を覆えば熱さが来ないだろう」
「うん、ほんとだ」
──とにかく、焚き火の熱さは体にいいんだよ。遠赤外線には、毛細血管を拡張させるんで、体を温めて全身の血流をよくする。新陳代謝もよくなって元気になるんだ。お風呂の湯も、ガスや電気とちかせって、湯冷めはほとんどしない。それは不思議だよ。
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「そうなんだ。それにしても、時間がかかるね。そうだ、ここで将棋やろうよ」
ということで、将棋板をもってきて、行灯(あんどん)と焚き火のあかるさの前で、将棋を5局指した。
おとうちゃんは、手加減しない主義なので、いつも10分以内でカタがつく。
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あかりは、いつも負けるので、思いきり悔しがる。だが、ここにきてめきめき上達してきた。
「頭金」「ケツ銀」「各筋が効いている」「棒銀」「居飛車」など、基本語もちゃんと理解するようになってきた。
──真剣に集中して一手一手指していくと、頭が良くなるぞ。相手の動きを見て一手先、二手先と考える。論理的思考力が身につく。集中力も身につく。
こうしておとうちゃんとあかりは、毎日、将棋は10局指している。来年には、手加減しないでも、おとうちゃんは負けるようになるような気がする。