裁判官「原告は事実の究明と言われます。お気持ちはわかりますが、裁判は事実の究明の場ではないんですね。
たとい事実であっても、それを裏付ける客観的な証拠がないと、残念ながら裁判では勝てないんです。
これまでの証拠で十分ですか。これをもとに判断してもらいたいということですか。あるいは、まだ新証拠がでてきそうですか」
原告「う〜ん。それは、じつはなかなか難しい。相手が反論してくる主張に矛盾とほろこびがあり、そこを衝いていくという戦法できました。証拠書類は14に及びますが、客観的な裏付けということでいうと苦しいのは事実です。しかし、これまでの証拠と論理をもって判決を出していただきたい」
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裁判を起こしてはや一年。準備書面は7までいった。擬制陳述といって、ほとんどが書面での応酬となるのだ。
裁判官も被告の弁護士も年内に決着したい。こちらは事実の究明をしたい。そのせめぎあい。
法廷に行くと、いつものようにラウンドテーブル。席につくと、裁判官が、それぞれの準備書面をもとに聞いていく。
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裁判官「これで判決を出してもらいたいということですか。しかし、不利な判決になった場合はどうしますか」
原告「そうしたら、控訴します」
裁判官「控訴ですか……。それはたいへんですよ。高裁は東京だし、毎月、新幹線で行かなくちゃいけなくなるし」
原告「え?高裁は、東京ですか。わたしはてっきり、静岡とばかり思い込んでいました。それは、つらいなあ。山奥から東京往復、一日がかり……」
裁判官「そうですよ(笑 。せっかく被告は和解案を提示しているので、ここで考えたらどうでしょうか」
被告の弁護士「老婆心ながら言いますと、ここで判決を押し通してもゼロになる可能性を裁判官は示唆しているわけです。ここで和解したらどうですか。和解したほうが得策と思います」
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「ううむ。そうかもしれませんね」
判決が不利になって控訴しても、東京に行く苦労。また一年かけて裁判の準備をするエネルギーを考えると、もうこのへんでいいか。来年、わが身がどうなるかもしれないし。もう十分に勉強になったし、という気持ちになった。
「じゃあ、インドの商売みたいですけど、被告の提示した額が○○万円、それに○○万円のせて○○万円ということなら和解します」。
被告の弁護士「それなら、被告はオッケーと思います。それでは、今から電話します」。
ということで、被告も了承。
その場で、裁判所の事務職員がやってきて、これで和解成立。以後、債権債務は発生しないこと、と文書にした。
裁判はこれにし一件落着。
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まあ、一年かかかったが、いい勉強になった。
なかなかものごしの柔らかな、笑顔を見せてくれるすてきな裁判官(40歳前後かな)であった。裁判官は、裁判の始まる時、原告(池谷)が迷っているのではないかと外で待っていてくれた。なんという丁寧さ。
これまでの過去の裁判は威張って偉そうで無表情のオヤジの裁判官ばかりであったから、今回の裁判は、とてもいい印象。
これで、ぼくの裁判の歴史は、3勝1分けということになった。