上から下まで白装束、口にマスク、箒を持って歩いている。こういう格好の人たちが何人も山道を歩いている。
ここは、南インドのマウント・アブーというジャイナ教の聖地。標高1220mのナキー湖があり避暑地としても有名だ。ディルワーラー寺院群と呼ばれるジャイナ教寺院がある。
かれらは掃除をしているわけではない。ジャイナ教徒の典型的なスタイルなのだ。マスクは、空気中の小さな虫を吸い込まないため、箒は虫を踏みつぶさないためだ。つまり「不殺生」を徹底して守るためなのだ。
暗くなって虫が口に入ることを避けるため、夕食は摂らない。雨期には虫や発芽した植物を踏みつけないために、歩き回るのをやめて一個所に定住するともいう。
「不殺生」のうえに、「無所有」も徹底している。信徒たちは白衣を着ているが、僧侶は衣類をつけずいつも真っ裸である。ふんどしもつけない。
ジャイナ教徒は、不殺生の教えのため、軍隊、漁業、農業などには従事しない。ほとんどが商人だ。宝石や貴金属を扱い、商才にたけた商人というイメージである。信徒はおよそ300万人で、全インド人口の0.5%という。だが、実業界での経済収益率はインド経済の3%もあるといわれる。
ずいぶんと禁欲的でエキセントリックな教えだと思うかもしれないが、じつはジャイナ教と仏教とは、驚くほどよく似ているのだ。