「太極拳のとき、体育館でおとうちゃんと思いきり走り回ったけど、あれは楽かったよ。こんどは、子どもたちが集まって、自由に走り回ったりしたいな」
──うん、いいね。あんなにきれいな広い体育館は、気持ちがいいよね。走り回るだけでも楽しいね。鬼ごっこもいいし。みんなに声かけてみようか。子どもたちが何人か集まれば毎日、体育館を借りたっていいよ。まあせめて週に一度くらいは借り切ってみようか。
「いいね、いいね。やろう」
▽
──でも、子どもたちで遊ぶときには、ルールを決めておいたほうがいいね。
「どんなルール?」
──たとえば、暴力を振るう、暴言を吐く。そういうときは、イエローカード。注意してもまたやれば、レッドカード。もう遊びには参加できないとか。
「うん。そうだね」
──暴力はわかるよね。ぶんなぐったり、つきとばしたり、蹴っ飛ばしたり、ねじふせたり。そういうことをしたら、退場。とくに強いものが弱いものに対しての暴力は許されない。
「じゃあ、自分よりも強いものに対しての暴力は?」
──うん、それもダメだね。いくら強くたってふいにぶん殴られたりしたら、いやでしょう。お互いに自分がやられて嫌なことはしない。そういうルールにしよう。それと、暴言もダメだね。
▽
「ぼうげんってなに?」
──口の暴力だよ。くわしくは、辞書を引いてごらん。
日本語の難しさは同音異義語が多いこと。漢音からの言葉からが多くて、漢字を知らないと意味をつかまえにくい。なので「いつも辞書を引け」と言っている。
辞書は数冊あって、食卓、風呂場、寝るところに置いてある。わからなかったら即、引かせることにしている。
「ええと、読むね。ある地方だけで使われていることば」
──それは「ほうげん」(方言)だよ。
「きけんなこと、ムリなことだと知っていながら、あえてすること」
──それは、「ぼうけん」(冒険)だよ。
「相手をきずつけるようならんぼうなことば」
──そうそう、それがぼうげん(暴言)。
死ねとか、消えろとか、バカとか、口の暴力。
自分が認めてもらえない人がそういう言葉を使うことで、注目されたいとか、エネルギーがほしいときに発することが多い。いわば悲鳴に近いんだ。
▽
そんなやりとりをした。
ともあれ、体育館で走り回るという集いをやってみたいもの。