「ねえおとうちゃん、おしゃかさまってへんな人だよね」
──うん? どうして?
「だって、お布施してもらった食べ物をちょっと口に入れたら、おかしいな?とおもっても、食べて死んじゃったんでしょう。それっておかしいじゃん」
──うん、そうだね。体に悪そうなものは、おしゃかさまならすぐにわかる。ひとくち食べて腐っているなとわかれば吐き出すのにね。おかしいよね。
「そうでしょう。」
▽
──まあ、むかしのことだから、わからないけど、こういうことかな。
もうおしゃかさまは、自分が年とって病気でボロボロで死ぬことはわかっていた。そこに、お布施したいという人が現れた。お布施するというのは、とっても尊いことなので、その心がけを大切にしたい。
「うん」
──それで、ひとくち食べて、あ、これはだめとわかっても、お布施というのは、すべていただかなくちゃいけない。そういうきまりを自分でつくっていたので、ぜんぶたべることにした。
どうせもうすぐ死ぬし、このひとにお布施の功徳を作ってあげたほうがいいかなと。
「でもやっぱりへんだよね」
──うん。へんだ。おしゃかさまはまちがい。これ腐っているよ。だから、自分の健康を害するので、たべない。もっと新鮮なものをくださいっていえばいいんだね。
「そうでしょう」
▽
──まあそこは、またゆっくりと考えよう。それよりも、ほら、そこに書いてある呼吸法。ながーく息を吐くと集中力がついて、心が落ち着くってことが大事だよ。
「そうそう。そこがわからなかった」
──それが肝心でね。どんなときでも、ながーく息を吐いていく。一、二、三……十と。吸う息は自然に入ってくる。そしてまた、ゆっくり吐く。それが、おしゃかさまの修行法なんだよね。これはやってみれば、すぐにわかるよ。
「うん。やってみる。すーはー、すーはー。……難しいや」
──これは、かんたんでいちばんむつかしいんだよ。またすこしずつやってみよう。もう寝よう。おやすみ。
「おやすみ」
昨夜、寝る時の会話であった。