過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

「主よみもとに……」という歌でしたっけ

Aさんが膵臓がんで、末期だということを聞いた。山里暮らし、ブルーベリーの栽培のことなど、いろい教えていただいた方だ。ハートのある快活で楽しい方だ。
 
電話してみた。
ぼくのこれまでの経験から、こういうとき、すぐに電話したほうがいい。
「あとで、そのうち」といううちに、やりとりができなくなってしまう。いなくなってしまう。
 
コールしてみた。
ああ、無理か。でないな。
そう思っても、何度かコールした。
そしたら、出た。
 
とても弱々しい声だ。ろれつが回らない。
 
──具合がわるいんだって?
「もう余命わずかだよ」。
 
──そうかぁ。死ぬのは仕方がないよね。みんな死ぬし。ぼくもそうだし。
「そう言ってくれると気が楽になるよ。がんばれとか言われると、つらいんだよ」。
 
──この春、いただいたウドが大きく育って、それを採って酢味噌にしていただきましたよ。おいしかった。
 
治療のこと、山里暮らしの家の処分のことやら、すこし話をしたのだった。
 
「いたくて、つらくて。いま賛美歌の320番を歌おうと思っていたんだ。けど、声がでないんだ」。
 
──それって、「主よみもとに……」という歌でしたっけ。
「そうだよ」。
 
──じゃあ、歌うね。
 
主よ 御許(みもと)に近づかん
登る道は 十字架に
ありとも など 悲しむべき
主よ 御許に 近づかん
 
電話口で、歌わせてもらった。
「ありがとう、おちついたよ」。