あかりをよくリヤカーにのせて、散歩する。今夜は三日月と金星を見ようねと言っている。
ところで、むかしは、藤(とう)で作った乳母車だった。近所にまだこの乳母車を保存しているうちがあったので撮影した。幼い頃、乗ったおぼえがある。
ごろごろごろ、がたんがたんがたん。その感触、振動を覚えている。三好達治のこの詩を思い出した。
「乳母車」
母よ――
淡くかなしきもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり
時はたそがれ
母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ
泣きぬれる夕陽にむかって
轔轔(りんりん)と私の乳母車を押せ
赤い総(ふさ)のある天鵞絨(びろうど)の帽子を
つめたき額にかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり
淡くかなしきもののふる
紫陽花いろのもののふる道
母よ 私は知っている
この道は遠く遠くはてしない道