過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

座棺

これ、なんだかわかるだろうか。山奥に訪ねたお寺の本堂に置いてあった。なにかの祭壇だろう、神輿かなぁ。和尚に聞いてみたら、なんと座棺を入れて野辺おくりをするためのものだった。

むかしは土葬だ。遺体は座った状態で丸い桶の中に入れる。いまも棺桶というのは、そこに由来する。神輿のように男たちが担いで野辺までおくる。

室生犀星の詩を思い出した。犀星は生まれたばかりの子を亡くす。冷たくなったわが子に靴下を履かせ、死に装束を着せ、棺桶におもちゃを入れ、石で棺を打つ。親は死児の葬送をしないという慣習があるのだろうか。犀星はひとりで家に留まり、つらさに耐える。

 靴下

毛糸にて編める靴下をもはかせ
好めるおもちやをも入れ
あみがさ、わらじのたぐひをもおさめ
石をもてひつぎを打ち
かくて野に出でゆかしめぬ。

おのれ父たるゆえに
野辺の送りをすべきものにあらずと
われひとり留まり
庭などをながめあるほどに
耐えがたくなり
煙草を噛みしめて泣きけり。