過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

白川英樹博士とセレンディプティ

イチローの子供の頃の作文について書いたが、今回は、ノーベル化学賞白川英樹博士。電気を流すことのできるプラスチック(ポリアセチレン)を発見された。その博士の講演会に行ったことがある。はったりとか計算とか、そういうのをまったく感じさせない。まさに学者というお人柄だった。▲博士は、中学生の時から、「新しい物質を作りたい。新しいプラスチックを作りだしたい」という夢を抱いておられた。そして、その夢を見事に実現された。これは、その中学生の時の作文だ。

「将来の希望」──高校を卒業できたら、できることなら大学へ入って、化学や物理の研究をしたい。それは現在できているプラスチックを研究して、今までのプラスチックの欠点を取りのぞいたり、いろいろ新しいプラスチックを作りだしたい。現在ナイロンのくつ下や、ビニールのふろしき等ができているが、あつい弁当をつつむと、のびたままもとにもどらない。非常に熱に弱い、これも一つの欠点である。これらの欠点をのぞき、安価に作れるようになったら、社会の人々にどんなに喜ばれることだろう。 日常品のあらゆる方面に利用されるだろう。ぼくは以上のことを将来の希望としたい。

博士は言う。「よく観察をする、ありのままを観ることは科学全般を学ぶ上での基本だ。その基本は、子供時代に昆虫を追って野山を駆けめぐったり、かまどの前にすわってマキが燃えさかるのを見たりしているうちに、知らず知らず身についたのだろう」▲また、講演では「セレンディピティと創造性」 について語っておられた。「セレンディピティ serendipity」とは、幸運にめぐり逢う機会を生かせること。ふとした偶然をきっかけに幸運を掴み取る能力といえようか。偶然をとらえて幸運に変える力ともいえるか。研究者にはそれが大切、と。

こうした平凡な日々のなかに、幸運の宝の素材が山ほどあるのだろうか。が、どうも見逃してばかりみたい。▲いや、すでに幸運を手にしている。それなのに、ありがたいと感じられなくて、するすると逃していっているのかも。▲意図せずやってきた縁、ややこしいこと、うんざりなこと、困ったこと……そのものが幸運の素材かもしれない、と。あるいは、その先に幸運が待っているのかもしれないなぁ。そんなことを思った。