インドの牛は、神さまとして大切にされている。日本で見かける牛とちがって、白くて背中にコブがあって、いかにも神々しい。
雄牛(ナンディ)はシヴァ神の象徴、雌牛は豊饒の象徴とされる。臨終を迎えようとする者に牛の尻尾を触れさせれば、牛が天国に導いてくれると信じている人もいる。
ただ牛といっても水牛は例外で、こちら鼻に輪っかをはめられ牽かれて歩く。耕作用にこき使われる。頭も悪そうで、ナンディとは風格に格段の違いがある。
インドには、牛が3億頭もいるという。しかも牧場にいるわけではなくて、町中でぶらぶらしている。道のど真ん中に寝そべっていたり、線路をのんびり歩いたり、駅のプラットホームにも出没する。交通渋滞の元になっている。けれども、人々は乱暴には扱わない。列車も車も、牛が通り過ぎるまで待つ。
牛の動きはゆったり、ゆっくり。悠然としている。瞑想的ですらある。まことに平和的で、あわてふためいたり、牛たちで争っているのは見たことがない。
牛は、畑を耕し運搬し力を提供してくれる。さらに食料や燃料を提供してくれる。
ミルクから、チャーイが。ヨーグルトやギー(精製バター)ができる。ギーは食卓にも治療にも、信仰の儀式にも欠かせない。
牛糞は乾燥させて燃料になるし、堆肥になる。儀式にも使われる。サドゥ(修行者)は牛糞が燃えた後の灰を全身に塗る。虫除けにもなるし、みずからシヴァ神と同一化しようとするのだ。
※スケッチは、リシケシのガンガーのほとりにいた牛たち