ものすごい数の牛が自由に徘徊しているのだから、いたるところ牛のウンチだらけだ。踏んづけてしまうのは日常茶飯事。
あるとき、道の真ん中で大きな鍋を頭に乗せて、這うように歩いている女の子がいた。齢は六つか七つくらいか。姉妹だろう。
牛糞を手ですくっては鍋に集めている。小さい子にはかなりの重さになるだろうが、バランスよく移動している。
牛糞は貴重な燃料となる。作り方は、藁を混ぜて団子にする。お好み焼きみたいに丸く伸ばす。それを、壁にベタベタと貼りつけて乾燥させる。あちこちの民家の壁には、手形のついた牛糞が貼りつけられている。乾燥すると瓦のように積まれる。数千年にわたって続けられていることだ。
牛糞は意外に火力が強い。安定した温度でゆっくりと燃え続ける。遠赤効果があって料理も美味しいと思う。燃えたときいい香りがする。しかも、室内が浄化されると信じられている。虫除けにもなる。
高熱で焼いた灰は、聖灰(ヴィブーティ)になる。よくサイババが空中から出していたのがそれだ。ヒンドゥー教の儀式には欠かせない。サドゥ(修行者)たちはを体に塗る。薬の効果もあって飲んだりもする。ちなみに、牛のおしっこもアーユルヴェーダでは、医療として飲まれたりする。
さらに牛糞には殺菌作用もある。粘土を混ぜて作った土壁の家には、虫やハ虫類が入ってこないという。また、鍋や釜の研磨剤になる。真鍮の器などを磨けばピカピカになる。
女の子は、燃料にした牛糞を、こんどは売って歩くのだろうか。