過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

ダージリンへの旅(2)──盲目の女乞食と娘

やっとのことで席を確保した。出発には、まだ時間がある。次から次へと物売りがやってくる。チャーイ、ピーナツ、草履、おもちゃ、弁当売りなど。かれらの声で車内は喧しい。

物売りが去ってすこし静まった。
後ろの車両から、なにやらもの哀しげな歌が聞こえてくる。

やがて、その歌声の主が姿をあらわす。それは、盲目の女乞食だった。30歳くらいだろうか。ぼろぼろの汚れたサリーを着ている。5歳くらいの女の子が、手を取ってゆっくりと歩いてくる。たぶん娘なんだろう。

女はゆっくりと歌いながら歩いてくる。わたしの前で立ち止まる。女の子が母の手を取って私の前に差し出す。

目をつぶって無視する。インドで乞食にお布施をしていたらキリがないのだ。しかし、彼女はあきらめない。手を差し出して、ババー、ババー(旦那さまあ)と哀願する。さらに無視する。すると女の子は、私の膝に額を押しあてる。大きな目でじっと見つめる。

むむ、そこまでされるとなあ……。仕方なく、お布施する。女乞食は、嬉しそうな顔をひとつもせず、ありがとうも言わない。さっときびすを返して、歌いながら立ち去る。

列車内は、ごった返している。通路には、行商人が何匹かのアヒルの足を縛りつけて持っている。ガアガアとアヒルが鳴く。少年が、車掌に思いきりぶん殴られていた。無賃乗車なんだろうか。やがて、ごとんごとんと列車は動き出した。