過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

ダージリンへの旅(3)──バウルとタゴールの歌

カルカッタからダージリンへの20時間余りの列車の長旅のことだ。二等の寝台に寝そべっていると、遠くから歌声が聞こえる。どこか懐かしいような響きだ。その歌声に引き寄せられて行ってみると、列車と列車を連結する通路に座って10人ほどの男達が輪になって歌っている。酒を飲んでいるわけでもないのに、なんとも楽しそうに歌っている。

近づいて見ていると、ここに座れと言うので、輪の中に入る。なんの歌かと聞くと、タゴールの歌だという。そうか、これはタゴールの歌なのか。かれの詩は読んだことがあるが、じっさいの歌は聞いたことがなかった。

ベンガルの人たちは、こよなくタゴールを愛し尊敬していることが、伝わってくる。
ラビンドラナート・タゴールベンガル地方に生まれた。詩集「ギーターンジャリ」で、アジア初のノーベル文学賞を受賞している。インド国歌はタゴールの作詞である。また、ロマン・ロランアインシュタインらとの親交も深かった。物理学者ハイゼンベルクに東洋哲学を教えている。

ベンガル地方には、〈バウル〉と呼ばれる乞食の吟遊詩人たちがいた。「宇宙の全てがこの身体にある」「人間の身体にこそ神は宿る」とバウルは歌い踊る。タゴールは、かれらに触発されて詩を作ったのだ。

その歌をじかにベンガルの男から聞くことができた。この懐かしい歌の響きは、地を這いながら歌い続けた、吟遊詩人の魂を受け継いでいるからだろうか。