過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

おびただしい虫たち(2)──カマキリがあぁぁぁ。

サラリーマンの頃は、夜は11時まで、土日も出勤。「人の倍も仕事しているんだ」と張りきっていたこともあった。気負いすぎてカリカリしていた。いま思うと、「なんだあいつ」「なにあの人」ってみられていたんじゃなかろうか。ストレスのたまる日々だった。

いつも昼休みになると、息抜きにスケッチをしていた。素材は受付の花瓶の花を借りた。描いていると、花と会話するような気持ちになる。「一日一絵」と、一人だけの穏やかな世界を楽しんでいた。

あるとき、描いていた柿の枝に角張った4センチほどの卵がついていた。それは、カマキリの卵だった。枝に風情があったので、机の上の花瓶にさしておいた。

数週間がたった初冬の朝、事件は起きた。

遅刻ぎりぎりで現れた私を見つけて、アシスタントの女性が駆け寄ってくる。

「いちりんさぁぁーん。た、たいへんです」

ワンフロアーに百人くらいの社員がいるのだが、なにやらみんなどよめいている。
彼女の指さす先には、何百、いや何千という小さな黄緑色の虫たちが……。4ミリほどのチビカマキリが跳ね回っている。

あ、あの卵から孵化したんだ。暖房で春と思ったのだろう。とにかく、なんとかしなくちゃ。あわてて瓶を探して、はいつくばってつまんでは瓶に入れた。大勢の冷たい眼差しを浴びながら、必死になって拾い集める。だれ一人、手伝ってくれる人はいなかった。