【①ドル交換とドーベルマン】2026.1.22
インドを旅していると、「うわっ、どうしよう」ということが次々と降りかかってくる。それをなんとか乗り越えていくのが、旅の醍醐味である。
これはバラナシ(ベナレス)での体験だ。
-----------------
当時(30年前)は銀行でドルを交換すると大変時間がかかるため、「闇ドル」交換することが度々あった。
道を歩いていると、ドルを交換する商人がやってくる。
「ドルを交換しないか?」と声をかけられる。それで、近くの店で交換する。
ただ、なかなかリスキーではある。レートが高くても、ルピー札が多くなるのでごまかされたり、「チャーイを呑んで行け」と言われて飲んだら、そこに睡眠剤が入っていて身ぐるみ剥がされたりとかの話も聞いていた。
バラナシでは、10歳くらいの少年に声をかけられた。
「ヘイ、ジャパニ、ドルを交換しないか」
「いいよ」
少年の後について行く。バラナシの町は狭い通りがぐるぐる曲がっている。右に曲がり左に曲がり、狭い路地を延々と歩いた先に、サリー屋があった。
30歳ぐらいの店主がいて、ドルを交換してくれた。そもそもドル交換屋は怪しいところが多いので、ごまかされないよう注意深く対応していた。
「チャイを飲んでいけ」と言われたが、絶対に飲まない。
さっさとビジネスライクにルピー札を数え、間違いがないか確認した。
「オッケー!ありがとう」と帰ろうとした。
------------------
すると店主は「待て待て」と制した。
「サリーを買わないか」と言う。
「いや、買わない」
「せっかくだから見ていけ」
「いや、いらない」
そう言ったのだが、男は次々とサリーの布地を広げてみせる。10枚、20枚。
だいたいの人は、布地を見せられると仕方なく1枚くらい買わされるはめになる。
しかし、私は不要なものは買わない。そして、こういうところで買うのはとても高いことを知っている。
「ありがとう。でもいらないんだ。それじゃあな」。
すると、男はニヤッと口元をほころばせた。
奥座敷から大きな犬を連れてきた。
ドーベルマンだ。
その犬は主人の言うことをよく聞く。吠えろと命令すると、「ガウガウ」と吠える。牙をむき出して恐ろしい。男は言う。
「サリーを買わなければ、この犬をけしかけるぞ」
犬はガウッと吠えて私に牙を向ける。