【⑰スマナサーラ長老外伝:ウ・ジャナカの説法】2025.11.15
これは今から30年ほど前のことになる。
「かやのき会館」で説法会が行われた。
ミャンマーのウ・ジャナカ師が来日し、説法をするという。
ウ・ジャナカ師はマハーシセンターの指導者で、有名な方であった。
壇上には、ウ・ジャナカ師とスマナサーラ長老、そしてもう一人の南方仏教のお坊さんが座っていた。
とはいえ、この場は長老が説法をするのではなく、壇上で話を聞いているだけだった。
参加者は200名ほどであった。
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長老にとって、ウ・ジャナカ師の説法の内容は基本中の基本で、つまらなく、興味がなさそうだった。
手持ち無沙汰な様子で、腕時計を外したりつけたりして、暇をもてあましていた。
友人のMさんが通訳を務めていた。
彼女は翻訳家でもあり、英語がとても堪能であった。
しかし、事前の打ち合わせなしでの突然の通訳だった。
ヴィパッサナー、サマタ、パパンチャ、ドゥッカなど、パーリ語の基本用語が次々と出てくる。
彼女にとっては、それが英語なのかパーリ語なのか、突然では判断がつかなかった。
しばらくして、彼女は「どう訳していいのかわかりません。わたしにはこの通訳は無理です。途中で申し訳ありませんが、この大役を私には務まりません。ここに日本語に堪能なスマナサーラ長老がおりますので、長老に通訳をお願いします」と、役を振ってしまったのだ。
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長老はマイクを手にしたものの、憮然とした表情を浮かべていた。
長老にとっては、普段説法している暮らしに密着した仏教とは異なり、「教科書のような仏教の説明を、なぜ自分が通訳しなければならないのか」という思いがあったのだろう。
しばらく沈黙が続いた。
さあ、どうなるか。
するとウ・ジャナカ師から、「心配には及びません。今日の参加者には、私の説法を通訳するのに非常に適任な方がいます。ミスター北谷、お願いします」という言葉があった。
参加者の中から現れたのが、北谷勝秀さんだった。
全く打ち合わせはない。突然のハプニングであった。
しかし、北谷さんは見事に通訳を務めておられた。
事前準備なし、期待も予定もなし、でも、その場に“最適な人”があらわれる。そのあたりはおもしろい。(次号)