過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

【⑩オウム】2025.11.1

【⑩オウム】2025.11.1

麻原彰晃から直接「シャクティパット」を受けた者の中には、世界観が確実に変わったと感じる者がいた。

身体的に、世界や日常が「グラリラリ」と回る感覚を覚えたという証言も、信徒から聞いている。

シャクティパット」とは、ヒンドゥー教の霊的伝統において、グル(導師)が弟子に霊的エネルギーを授ける儀式である。

サンスクリット語の「Shakti(エネルギー、力)」と「pat(落下させる、与える)」に由来する。

オウム真理教では、教祖である麻原が自らのエネルギーや「心のデータ」を信徒に直接注入する儀式とされ、最高位のイニシエーション(秘儀伝授)の一つと位置づけられていた。

このような身体的・精神的な変容を体験した者たちは、深く帰依し、熱心な信徒となっていったと考えられる。

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麻原は多くの信徒を獲得するため、盛んにシャクティパットを行った。しかし、度を超えて能力を使いすぎたのではないかと、当時を振り返る関係者もいる。

知人らは、「シャクティパットを行いすぎたことで彼自身がおかしくなっていった」「能力を消耗し、そこに悪霊のようなものが入り込んだのではないか」と語っていた。

自身の精神的・肉体的な限界と破綻が、教団全体の変質に影響を与えたと考えられる。

ある時期を境に、核心的な秘儀はシャクティパットから「キリストのイニシエーション」へと変化した。

これは、LSDを混入した液体を飲ませた信徒を独房に閉じ込め、その際に生じる幻覚や離人症などの精神的な異常を、無理やり「覚醒」と解釈させるものだった。

この変化は、「真摯な実践」から「他者への強制と破壊」へと教団が完全に変質した決定的なターニングポイントと言える。それは、「自己変容を求める真摯な実践」が「他者を傷つけることを正当化する思想」に堕落していく過程でもあった。

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こうした流れと並行して、教団の教義は「ハルマゲドン」を強く説く方向へと傾いていった。

「ハルマゲドン」とは、世界の終末における善と悪の最終戦争を指し、比喩的に「世界の終わり」や破滅的状況を意味する。

オウム真理教は、この来るべき「ハルマゲドン」に備えるとして、サリンの開発・製造、自動小銃の製造、毒ガス散布を想定したヘリコプターの購入など、具体的な武装化を進めていった。

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オウム真理教という事件から得るべき教訓、あるいは「落としどころ」は、「私たちはオウムを笑えない」という一点にあるのではないだろうか。

多くの信徒は真摯に修行に励んでいた。しかし、ある日、道場は機動隊に包囲され、破壊され、幹部は一斉に逮捕された。彼らが関与した凶悪犯罪が明らかになるにつれ、信徒たちは社会から強い非難を浴びた。

この構図は、国家にも当てはまるのではないかという危惧がある。

国民の大多数は日々、勤勉に仕事に励んでいる。しかし、国家中枢で何が企まれているのか、国民には十分には知らされていない。

そして、ある日突然、大規模な破壊が訪れる――そんな可能性を、私たちは想定内に入れておく必要があるのかもしれない。

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国家という巨大なシステムが、時に恐るべき方向へ向かう可能性がある。自分たちもいつ被害者であり、加害者になるか分からない。

歴史を振り返れば、戦前の日本は天皇制を中心とした国家主義のもと、「聖戦」や「八紘一宇」をスローガンに他国を侵略し、大本営発表で「勝った、勝った」と喧伝した。その果てに、空襲と原爆投下による破壊を経て、無条件降伏という結末を迎えた。

国家が暴走するとき、その帰結は計り知れない。私たちは、熱狂や同調圧力の体制に無自覚に巻き込まれる危険性を常に意識する必要がある。

※「オウム」シリーズはとりあえずこれで終了。