【⑥オウム】2025.10.31
オウムについて振り返ると、さまざまな思いが湧き上がる。そして実際には、想像を超える危険な事態が進行していた可能性もある。
表向きは宗教団体でありながら、その実態はヘリコプター操縦から武器部品製造、覚せい剤の製造、麻薬取引まで及ぶ巨大な「シャドウ・エンタープライズ」であったともいえる。
⦿---------------------------------------
デザイン部門の責任者は、自動車の普通免許すら持っていないのに、麻原から「アメリカでヘリコプターの免許を取ってこい」と指令を受けた。彼は実際に免許を取得し、やがてロシアからヘリコプターがオウムの施設「サティアン」に搬入された。K氏がその操縦を任されることになったようだ。
訓練としてラジコンヘリを使ったシミュレーションを行っていたが、施設に衝突させて破損させてしまう。麻原彰晃から「おい、気をつけろ。これは高いんだから」と叱責されたという。
⦿---------------------------------------
月刊誌の編集長は、内部のスパイと疑われ、林医師が経営するオウム系の病院に連行され、電気ショック療法を施された。その結果、ある期間の記憶が完全に失われてしまったと直接聞いた。
短期記憶は脳の海馬に蓄えられ、大脳新皮質に移行する過程で電気ショックを与えられると、記憶が消失したり混乱したりするのではないかと考えられる。電気ショックによる記憶操作は、組織が物理的・心理的コントロールを徹底していたことを示す。
⦿---------------------------------------
知床に移住したイラストレーターの女性は、優れた画力を持ちながら、山梨県の自動小銃部品工場での作業を割り当てられていた。
その他、翻訳力があったり情報処理に長けた知的に有能な人材が、ユンボなどでの土木作業を割り当てられていたとも聞く。
人材の「誤配分」や組織の非合理性ともいえるが、あらゆる仕事が等価値で、すべてがワーク(グルが与えた修行)というありようをしめしている。そこから、「ポア」という思想が展開されるが、それはまた次回に書く。
⦿---------------------------------------
当時、秋葉原に頻繁に足を運び、Mac関連のパーツを探していた。その秋葉原に、突然「マハーポーシャ」というパソコン販売会社が出現した。オウムが自前でパソコン部品を調達し、信者エンジニアが設計・組み立てていた。
彼らの販売力は圧倒的だった。秋葉原の駅を降りた瞬間、数人の信者が寄ってきて、「マハーポーシャです。安いです」とチラシを手渡す。彼らはパソコンを描いた段ボールを頭にかぶり、威勢よくチラシを配布していた。その熱心さには驚かされた。
製造も販売も信徒だから、人件費はかからない。「宗教ビジネス」「カルト経済」 の先駆けともいえる。
信徒が「修行」「奉仕」として無給労働による低価格戦略。原価ギリギリで販売 で市場を席巻して、利益のほぼ100%がオウム本部へ流れる。
信徒だから人件費がかからないというビジネスモデルは、宗教団体に特有なものだ。創価学会にしても統一教会にしても、布教や選挙の応援や広報など、人件費はほとんど発生しない強みがある。
⦿---------------------------------------
オウムが選挙に立候補すると、荻窪や高円寺周辺の駅では、麻原の顔面を模したかぶり物をした男性が「麻原です、麻原です」と叫びながら投票を呼びかけていた。
また、「うまかろうやすかろう」をキャッチコピーに、弁当会社も経営していた。「1日16時間働き、睡眠3時間。疲れて倒れても『修行だ』と言われた」(裁判記録より)
潜水艦を作ったり、このあたり、荒唐無稽な興味深いエピソードが多数ある。(続く)