【審査冷暖情】2025.5.27
「そういえば、話を聞いていて、池谷さんにお会いしたことを思い出しました。春野まで訪ねたことがありますよ」
──え、そうなんですか? いつだろう。『春野人めぐり』のときですか?
「いや、それではありません。私は県庁にいたものですから、そのときの定住促進の事例としてお話を伺いに行ったのを覚えています。池谷さんは北遠の山里のマップを作り、人と人をつなげる事業をしていましたよね」
──はい、やってました。ああ、そうすると、県庁から技官の方と数名でいらっしゃったのを思い出しました。
あれはもう10年以上前のことですね。農地法が緩和され、農家資格がなくても古民家と農地がセットなら購入できるという流れの中で、事例として訪ねてきてくださったんですよね。
「私はあのとき、ここが春野なんだ、春野に来たなあと感じて、いい思い出ばかりでしたよ」
家で語り合い、田んぼも案内したものだ。あの頃は、元気に田んぼやアイガモ農法に取り組んでいた。あれから比べると、今は体がすっかり衰えてしまったなあとしみじみ思う。
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ある財団法人の助成金を申請し、そのヒアリングに出かけた。
片道1時間半、車の運転はまだ大丈夫だ。しかし、駐車場から会場まで移動するだけで、すでに息切れがして苦しくなっていた。
ヒアリングが始まる。
企画書はすでに用意して提出済みだ。こちらはプレゼンを行う立場である。
ところが、ゼーゼーハァハァと息を切らしていて、かなり苦しい。
相手の事務局長は、私の苦しそうな様子を見かねたのか、こちらの書類を声に出して読み上げ、ラインマーカーで確認しながら進めてくれた。
私は相手が読み上げる内容に「はい、そうです」「それについてはこうです」と答えるだけだった。
冒頭は、そのときのやりとりである。
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それにしても、助成金のプレゼンや審査では、相手によって対応は実にさまざまだ。
親切で丁寧なところもある。ときには旅費や宿泊費が出たり、別室で待機しているときにジュースを出してくれたり、ヒアリングの際に審査員全員が立ち上がって名刺を渡してくれるところもある。また、採択されると、青山まで旅費や宿泊費を出してくれて、豪華な立食パーティに招待してくれたところもあった。
一方で、自己紹介もなく、敵意に満ちた異端審問のような審査会もある。誰なのかわからないまま次々と厳しい質問をされる。いきなり当日欠席の審査員の学者のコメントが読み上げられる。「このような企画は独りよがりで、納得がいかない」といった内容だ。
次々と質問が来る。相手の立場がわからないので、どんな視点から質問しているのか見当がつかない。それに対して答えようとするが、相手の背景がわからない。しかも、距離が遠く、表情も読み取れない。いろいろ答えようとすると、「はい、時間です」と遮られる。当然、不採択だ。まあ、あれほど酷い審査会は、人生でもそうそうなかったなあ。
まあ、こうしてさまざまな体験を重ねていくものだ。それはそれとして、味わい深い人生の思い出として。
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憶昔春野行
技官問農耕
十載身先衰
審査冷暖情
(書き下し文)
昔を憶(おも)う 春野を行き
技官(ぎかん)農耕を問う
十載(じっさい)身(み)先に衰え
審査冷暖の情(じょう)
※解説
起:春野訪問の回想
承:農法相談の情景
転:十年後の衰え
結:審査会の温度差
20字に10年間の時空を圧縮