過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

脳神経の可塑性とリハビリ 

「ある朝、グレーゴル・ザムザが夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変っているのを発見した」
フランツ・カフカの小説『変身』の冒頭。
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いきなりトップギアから始まる短編小説だ。一気に読ませる。
このような体験がわが身に起きたのはFさんだった。

友人のFさんは、明け方まで仕事をしていて、とつぜんローマ字変換の文字入力ができなくなる。
チャットのやり取りをしていた友人が、「なにかおかしいぞ」と気づいて、救急車を呼べということになった。

脳梗塞だった。
突然に襲った、右半身不随。
もう仕事はできない。
手は動かない。足は動かない。歩けない。

うまく喋れない。記憶も断片的にしか残らない。
「どうしてこんなことになった」。
人生が一変。事態を受けいれられなくて、パニック状態。毎日、泣いていた。

神経が麻痺した部位には神経が通わず、重たい手、重たい足となってしまう。まるでカフカの変身の巨大な虫のような思いだった。
それが、ことしの3月。
  
以来、リハビリを繰り返し。
それは、カミュの「シーシュポスの神話」のような思いだったかもしれない。

※シーシュポスは、岩を持ち上げてもまた岩が落ちてくる。持ち上げる。岩が落ちる。えんえんと繰り返す。同じ動作を何度も何度も繰り返しても、結局は同じ結果にしかならない。

しかし、かれは回復していったのだ。やがて、歩けるようになり、右手も動き出す。
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わたしの亡き母も、脳梗塞で右半身不随となった。器用で裁縫が得意だった。しかし全く何できなくなってしまった。

あれへんだぞ? 喋り方が、歩き方が。
そういう時は、とにかく大至急、救急車を呼ぶ。
まあしかし、ひとり暮らしだとそこが難しい。

脳梗塞を起こしてから3時間以内であれば、血管の詰まりを溶かして血流を再開する「血栓溶解療法」を行うことで、症状が回復することがある。あるいは後遺症も軽くなる。tPA(アルテプラーゼ)を投与するのだ。

そして、F君のように、年齢も若くてきっちりとリハビリをすれば、脳細胞が新しい神経回路をつくっって、神経が動き出す。麻痺から回復することがある。
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脳の細胞は一度失われると再生することはない。違う回路を開発するしかない。リハビリを繰り返すことで、傷ついたり死んでしまった脳内の神経細胞の周辺に、新たな神経細胞同士のネットワークが築かれる。脳への刺激によって脳細胞の配列が変化する。損傷していない部位が壊死した細胞が担っていた機能を代替し、運動の記憶が戻る。
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こんどの「いちりん楽座」では、かれに脳の可塑性とリハビリの過程を語ってもらう。