過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

「山里にいる 普通なのに普通じゃないすごい90代」すばる舎刊行

「山里にいる 普通なのに普通じゃないすごい90代」すばる舎刊行
9月に出すということで、いま大詰め。原稿の最終確認。
「まえがき」と「あとがき」つくった。こんなんでいいのかなあ……。たたき台なので、コメントもらえたら「あっそうか」と修正できるので、適当な言いっ放しでも、よろしくお願いします。
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まえがき
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東京暮らし40年に限界を感じて、あるとき、「都会暮らしはもういい。人生の後半は田舎暮らしだ」と急に思い立った。
といって具体的に住みたい場所があったわけではないが、やはり故郷の浜松の近く。山里がいい。
地図をくまなく見ていたら、「春野町」(静岡県浜松市天竜区)という地名が目にとまった。
春の野の町。とても良い響きだ。「ここがいい」とピンときて、空家探しに出かけた。
見つけたのは、古民家と土地1700坪(宅地400坪、農地1300坪)という広大なところ。
春野町は、人口は3500人ほど。東京都23区の4割もの広さだ。
都会から移住すると、まず空気の質感が違うのにおどろいた。
重たくないのだ。すっきりしていて、疲れ方が違う。
星空がきれい。清流がある。森がある。
都会では味わえない、日々の充実感。私はここでの暮らしがすっかり気に入った。
3000平米もの田んぼも始めた。無農薬のアイガモ農法だ。大豆を何百キロも収穫した。炭焼窯もつくった。
そんななか、山里に暮らす人々と、接する機会は多くなっていった。
田舎ゆえの閉鎖的なところもある。
しかし、生き生きとした山里の暮らしに出会うのは楽しい。
なにより魅力的な人がたくさんいるのだ。
その方たちの生き方、暮らしぶりを聴かせてもらうのが楽しみとなった。
春野町は過疎高齢化が著しい。この10年で人口減少率は3割近い。
子どもの声がほとんど聞かれない。山里で出会うのは、お年寄りばかりだ。
でも、とにかく元気なのだ。80代はざら、90代でまだまだ現役で仕事をし、自立して暮らしている。
都会暮らしの私から見ると、びっくりするような方がたくさんおられた。
みなさん、屈託なく、柔和で味わい深い。
年輪の深みがじわーんと響く。
一見すると、どこにでもいる普通のおじいちゃん、おばあちゃん。
しかし、なかなか普通じゃない。とってもすごいのだ。
だが、自分がすごいなんて、微塵も思っていない。
とくに健康法があるわけじゃない。
でも、暮らしの中で体を使ってやる仕事がたくさんある。
幼少期から山で暮らしてきたので、鍛錬されているのだろう。 
なにしろ山里は不便だ。駅までものすごく遠い。店もない。医療設備も弱い。バスもなかなか来ない。
なので、自分でひとつひとつ工夫しないとやっていけない。
自分のことは自分で行い、持てる力で人を助け、互いに支え合いながら暮らす。
そうした日々を重ね、老いを迎えた方々の笑顔は、まさに神々しい。
この本では、そんな「すごい90代」の方たちにご登場願った。
みんな私の暮らしている近くにおられる人生の大先輩たちだ。
大詰めで原稿の最終確認。
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あとがき
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この山里で診療所とデイサービス、老健(介護老人保健施設)、訪問看護施設を経営する、医師の遠藤徹郎さん(79歳)がおられる。遠藤医師は漢方が専門。大学では「老人学」を専攻した。かつ僧侶(浄土真宗)というめずらしい経歴の持ち主。高齢化が進む過疎地を、医療と介護の両面から支えている。
──山里は、やはり元気なお年寄りが多いと思います。どうしてなんでしょうか。
「うーん。やっぱり空気と水がおいしいことかな。都会よりはのんびりしている。それは大きいよね」
──山里はなにしろ坂が多いから、自然と足腰が鍛えられますよね。とくに昔は、歩くしか交通手段がなかったから、子どもの頃からの鍛え方が違うんでしょうね。
「そうだね。それと、食べ物かなあ。とにかく野菜をたくさん食べる。自分で畑で野菜を作っているからね。せっせと草取りをしている。それが、いい運動になっているんだろうな。うちの老健では、利用者さんに畑を提供して土いじりをしてもらう。みなさん幼少の頃から草取りしてきた方たちだから、もう自然と体が動いてね。草をほうっておけない(笑)」
「よく草を取る」というのは、「日常の中で(畑の世話をするという)仕事がある」ということ。それがいい運動になり、日々のやりがいになっている。たくさん野菜ができたら、差し上げたり。他人から頂いたりする。料理の方法もおしゃべり。そういうやりとりで交流がすすむ。
本書でご登場願った、90代の方々は、7人7様の生き方なれど、そのお元気ぶりには共通点があるように思う。
取材で感じた「健康長寿の秘訣」をあげてみる。
1.日々するべき仕事がある。現役である。
2.特別な運動はしなくても、暮らしそのもの、家事の中に動きがある。
3.ぜいたくなものは食べない。菜食を中心とした粗食。
4.人とのやりとり、おしゃべり。おしゃべりできる相手がいる。
5.いろいろなことがあっても、苦にしない。さらりと流している。
6.いまある暮らしで満足している。欲が少ない。高望みしない。
7.人に喜んでもらうことが喜び。人の役に立とうとする。人をもてなす。
なかでも、1の「日々するべき仕事がある」ことが、大きなポイントかなあと思う。
どんな形であれ、日々、体を使って動かす。
年をとってからの生活で寂しいのは、
「きょういくがない」(今日、行くところがない)
「きょうようがない」(今日、用事がない)
ことだと言われる。
望ましいのは、現役で仕事をしていること。仕事があること。生涯現役。
それこそが「人生百年時代」の鍵なのだろう。