過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

ライシャワー「対日政策についての覚書」

ライシャワー真珠湾攻撃の翌年、1942年9月、米国戦争省に提出した「対日政策についての覚書」を紹介する。

この提言は、戦後の日本の占領政策の基本的な理念を示している。

当時、ライシャワーは当時31歳。ハーバード大学極東言語学部の講師。日本生まれ、日本育ち。日本の歴史や文化にも造詣が深い。妻(結婚したのは戦後)も日本人。60年安保のあと駐日アメリカ大使を務めた。

ライシャワーが当時31歳の青年であり、真珠湾攻撃の翌年の提言であることに、驚く。

あたりまえだが、戦争するに当たって大切なことは、敵国の文化背景・相手の人間の心情をよく理解すること。戦争に勝利した後には、いかにして統治していくかという政策がなければ、ならない。
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提言のポイントは以下。

①日本の占領統治のためには、日本の天皇を傀儡(パペット)にしていくのが最も効果的だ。だから、この戦争で天皇に汚点がつかないようにしておくのがいい。

②日本はこの戦争を戦争を黄・褐人種の白人種からの解放のための聖戦としようとしている。それが半ば成功している。日系人を隔離することは、そのプロパガンダにのってしまうことになる。ゆえに、日系人の部隊を作りヨーロッパ戦線に投入するのがよい。日系人負の遺産ではなく、資産にするのだ。

この戦争はアジアにおける白人優越主義を温存するための戦争ではなく、人種にかかわらずすべての人間にとってよりよい世界を樹立するための戦争である。それを示すもっともよい証拠となるのだ。

以下、原文を抜粋して少し編集した。
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日本人は極度に自尊心が敏感で、強度に民族主義的な人民(nationalisticpeople)である。戦争に敗北することは、日本人のなかに残っている数少ない自由主義者さえ、幻滅に落とし込む。
日本人の善意や協力は何の価値ももたないと多くのアメリカ人は信じている。しかし、日本の人民の協力なしには、この地域に健全な政治的・経済的状況を作り出すことができない。

戦争終結後、我々の価値体系の側に日本人を転向させるにあたって、大きな困難の一つは、敗北の重荷を転嫁する適当なスケープ・ゴートが存在しないことだ。ドイツとイタリアでは、ナチ党とフアシスト党が、さらに有り難いことにヒトラームッソリーニという全体主義体制をひとまとめに象徴してくれる人格が、最も都合の良いスケープ・ゴートの役割を果たしてくれる。敗北したドイツ人とイタリア人は、独裁党政権を解体し、現在の指導者を追放することができる。邪悪な指導者が悪かったのでそのために敗北したのだと、自分たち自身を納得させることができる。

日本ではこのように指導者に責務を転嫁することによって、(人民の)面子を救うことはできない。なぜなら、すべての人民が天皇には責任がないことをよく知っている。日本では現実の指導層はむしろ匿名的な権力使用を常習としており、責任を取らせる政党は存在せず、スケープ・ゴートの役を演じてもらえるような傑出した個人はほとんど見当たらない。

第一歩は、喜んで協力する集団を我々の側に転向させること。いわば傀儡政権ということになる。日本それ自身が我々の目標に最も適った傀儡を作り上げてくれている。それは、我々の側に転向させることができるだけでなく、素晴らしい権威の重みをそれ自身が担っている。それは、日本の天皇だ。

天皇自由主義者であり内心は平和主義者であると考えてもよい。天皇国際連合と協力する政策に転向させることが、彼の臣民を転向させることよりも、ずっと易しい。天皇が、おそらく天皇のみが、彼の臣民に影響を与え、彼らに現在の軍部指導層を弾劾するに至らせることができる。

戦争終結の後の思想戦のために、天皇を貴重な同盟者あるいは傀儡として使用可能な状態に温存するためには、現在の戦争によって汚点がつかないように、我は彼を隔離しておかなければならない。新聞やラジオで天皇を広く冒涜することは、戦後の世界において我々にとっての彼の利用可能性を容易に損なうことになりかねない。報道波及機関に対しは、裕仁への言及をできるかぎり避けること、むしろ東条あるいは山本、さらには滑稽な神話的人物ミスター・モト──軍服姿で──を現在わが国が戦争状態にある敵国日本の人格的具現として使用するのがよい。

第二の点は、アジアにおける抗争の間人種的側面に関わるものだ。日本は国際連合に対する戦争を黄・褐人種の白人種からの解放のための聖戦としようとしている。日本のプロパガンダはシャムや東南アジアの植民地、そして中国の一部でさえ、ある程度の成功を収めている。日本人はアジアにおける闘争を全面的な人種戦争へと変換することが可能であるかもしれない。

我々は意図せずに日本の危険なプロパガンダに手を貸してしまっている。日本人を祖先にもつアメリカ市民を米国籍をもたない日本人とともに西海岸から移動させることは、緊急の軍事的配慮からみて、必要な行動であったことは疑いを容れない。しかし、白人種はアジアの人びとを白人と平等とはみなさず、未だになお差別し続けているという見解にアジアの人びとを賛同させようという日本人に、これは強力な論拠を与えることになってしまった。

今次の戦争はアジアにおける白人優越主義を温存するための戦争ではなく、人種にかかわらずすべての人間にとってよりよい世界を樹立するための戦争であるということを示すためには、(日系アメリカ人による)合州国に対する誠実で熱意に満ちた支持ほど優れた証拠はありない。

日系アメリカ人がわが国の側で志願しかつ喜んで戦ったという事実ほど、今次の戦争は、民族としての日本人を破るためのたんなる戦争ではなく、彼らの軍閥が仕掛けた野蛮な企みを撃破して日本を国際協力の価値体系に引き戻すための戦争なのだということの、日本の人びとに対する証左になる。

日系アメリカ人を(わが国にとっての)負債ではなく資産にするためには、最も有効な方法のなかには、彼らに軍隊に参加することを薦め、政治思想の訓練さらには戦後、軍隊であろうと民間であろうと、必要になるであろう専門技量の訓練を彼らに授けること。日系アメリカ人と彼らと一緒に任務につくことを欲する他のアメリカ人とを併せて、ヨーロッパおよびアフリカ戦線での戦闘の任務を担う特別志願兵部隊を組織することは難しくはない。

戦闘部隊に多数の日系アメリカ人を含めることは、日系アメリカ人社会全体の士気を高め、合州国に対して日系アメリカ人社会の忠誠を確保するための役にたつ。さらに重要なことは、太平洋の戦争が終わった際にこのような部隊は、我々と我々の軍隊に対する日本の人口の敵意を弱めるための、掛け替えのない資産になる可能性がある。

十万人の日系アメリカ人、さらに日系アメリカ人軍人が、国際連合の理念に喜びかつ積極的に参与することを、アジアの平和を勝利するためのこの偉大な闘争において、例外的な戦略上の有利さへと変換することが可能である。

1941(昭和16)年9月14日
エドウィン.O・ライシャワー極東言語学科教員@ハーバード大学酒井直樹訳)池谷が一部、抜粋して編集。
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このようにして、戦後、天皇は占領軍の傀儡(パペット)として、見事に演じきった。

占領軍は、天皇を象徴として、生かしておくことで日本を統治した。軍国主義日本にならないために、憲法9条戦争放棄・戦力不保持にした。