過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

便利屋猿ちゃん

 
過疎地の買い物支援と見守り
猿田光里さん(浜松市天竜区在住、75歳)
 
山里暮らしのたいへんさは、買い物が不便なことです。高齢になると、歩いて行くのはたいへんなこと。なにより過疎地の山里には、もう店がなくなってきています。
 
そんな過疎高齢化の著しい山里で、買い物代行サービスと便利屋の仕事を行っている方がいます。
便利屋「猿ちゃん」こと、猿田光里さん(75歳)です。
 
◉買い物に行けないお年寄りの玄関先まで
 
猿田さんは浜松市天竜区春野町の山あいに住むお年寄りを訪ね、パンや菓子、惣菜、野菜などの食品や日用品を届けています。週に6日、春野町の6つの地域を軽自動車で走ります。山道は細くて急峻なところも多いので、軽自動車のワンボックスカーです。
買い物に行けないお年寄りの玄関先まで行き、食料品や日用品を運んでそこで店を開きます。
「多少の手数料をいただくだけで、ほとんど利益は出ていません。なんとか年金で食いつないでいます」と猿田さん。
 
たんに物品を販売するだけではありません。ひとり暮らしのお年よりのよき相談役、話し相手にもなっています。週に一度、訪ねてくる猿ちゃんを、心から待っているお年寄りが、たくさんいます。
また、見守り支援にもつながっています。訪ねた時に、倒れて救急搬送の連絡をしたケースが、これまで何度もあったといいます。
 
◉自分を待ってくれている人がいる
 
猿田さんは、浜松市のまちなかから、春野町の勝坂という山間部に移住して25年になります。
山里に移住したとき、買い物に行けないお年寄りが多いことを知って、便利屋と移動販売の仕事をしようと思い立ちました。
「便利屋」という仕事を始めて、15年になります。けれども、仕事を始めた当初と比べて、過疎高齢化は急激に進んでお客さんはずいぶんと減りました。いま固定客は、120軒ほどになります。
 
「ぼくが訪ねてくることを、楽しみにしている方がたくさんいます。その方の役に立っていることが生きがいになっています。
ぼくの同世代では、もう現役を引退して悠々自適な人が多いです。どこに行こうか、なにをしようか、暇を持て余しています。
そんな友人をみていて、こうして現役で仕事を続けられることは、なによりありがたいと思っています。自分を待ってくれている人がいることが、張り合いです。ありがたいことです」。
 
◉できるかぎり、生きて生きて、生き抜きたい
 
ところで、どれくらいまで仕事を続けようとしているのでしょうか。
「なんとか、動けるうちは、元気でいるうちは働き続けたいです。生涯現役ですよ。できるかぎり、生きて生きて、生き抜きたいという思いです」
 
それは、いったいどういうことのためなんでしょうか。重ねて聞いてみました。
「いまの世界が、ますます悪い方向に行くような気がしています。いったいどんな世の中にっていくのか。それを、しかとこの目で見届けたいと思っているからです」。
 
自分を待ってくれる人がいるという生き方。人に喜ばれ、人の役に立つ生き方。
猿田さんは、今日も休むことなく、山間を走り続けています。