過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

スピリチュアリティーとナショナリズムが融合する現象として、安倍昭恵を語る

中島岳志のインタビュー(朝日新聞9月2日)。おもしろい見方。
スピリチュアリティーとナショナリズムが融合する現象として、安倍昭恵を語る。【自分探し→精神世界→エコ→伝統回帰→ナショナリズム】という思考回路。
以下、ピックアップ
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・近代の行き詰まりを批判し、農業を基盤とする社会ヘ伝統回帰しようとする「農本主義」の運動は、国家主義と結びついていった。
・近代に懐疑のまなざしを向け、エコロジーなどに傾斜した人が、伝統回帰を通じて国家主義に至る現象は広範に見受けられる。ナチュラルな思想が、ナショナルな思想に回帰していく。
・その世界観が、「ニッポンすごい」系のナショナリズムや排他的な愛国心へと接続する。
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以下、本文
昭恵さんの突拍子もない言動について、多くの人が「愚かだからだ」と思っているでしょう。でも、昭恵さんが歩んだ道は、賛否はともかく筋が通っており、社会問題として理解すべきです。
彼女に興味を抱いた一番のきっかけは、森友学園の問題でした。それまでの昭恵さんは、反原発や防潮堤の計画見直しの発言などで「家庭内野党」を標榜し、「夫は右なのに、妻は左」ととらえられていた。
ところが教育勅語を暗唱させる教育に感動し、森友学園の名誉校長を引き受けていたことが分かると「右か左かよく分からない」と言われるようになった。でも私から見ると、「右か左か」の観念で理解しようとするのが間違っています。
昭恵さんに関するあらゆるものを読みましたが、本人の中には一貫した論理があります。第1次安倍政権の時に「ファーストレディー」の型にはめられた昭恵さんは、「私らしさ」を求め、大学院に通いました。その中で神社巡りなどにも傾倒します。
スピリチュアルな世界観は自然回帰へとつながっていき、無農薬の「昭恵農場」や、国産食材だけを使う居酒屋を開きます。次第に「本質的な日本」や「日本の伝統」の世界に入っていきました。
こうした流れは、実は、戦前から繰り返されてきたものです。近代の行き詰まりを批判し、農業を基盤とする社会ヘ伝統回帰しようとする「農本主義」の運動は、国家主義と結びついていきました。
その背景にあったのは、煩悶する若者たちでした。自分を探求した青年が、宗教や哲等など精神世界と結びつき、やがて君民一体による自己救済を求め、超国家主義へと接続していった。「自分探し」から自然・伝統回帰や精神世一界につながった昭恵さんの道筋ととてもよく似ています。
彼らの中にある筋道を「右左」という枠にはめると見えなくなるものがあります。近代に懐疑のまなざしを向け、エコロジーなどに傾斜した人が、伝統回帰を通じて国家主義に至る現象は広範に見受けられます。ナチュラルな思想が、ナショナルな思想に回帰していくのです。
私も有機農業などには共感しますし、日本の伝統の中にも重要な英知があると思います。しかし、その世界観が、「ニッポンすごい」系のナショナリズムや排他的な愛国心へと接続することには、論理の飛躍があります。
昭恵さんの考えは、彼女一人の突拍子もないものではなく、一つの社会現象です。そして、それは私たちの身近なところに存在している。
安倍内閣が終わっても、昭恵さん現象は終わりません。スピリチュアリティーとナショナリズムが融合する現象には、今口後も注視する必要があります。
(聞き手・田中聡子)