過疎の山里・春野町で暮らす

山里暮らしの日々を綴る/いちりん堂/NPO 法人 楽舎

月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也

昨日は春野の産業祭だった。人との出会いが楽しい。出会って語りかけると、いろいろ人生の断面がドラマであらわれる。

鍛冶屋の片桐さん(83歳)。浜松でも唯一の鍛冶職人。地金づくり、研ぎから販売まで、ひとりでこなす。
「14歳のときから鍛冶を始めたので、70年になる。まだいくらでも仕事はできるんだけど、足腰が弱って痛い。ま、製品は腐るもんじゃないので、在庫は沢山あるんだ。惜しいのは、後継者がいないこと。だが、90歳まで現役で頑張る」。
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片桐さんと話していると、Iさんを見つけた。「最近どうしている?」と聞くと、「いやぁ、たいへんだったよ。屋根から落ちてね、落ちたときにパイプがお腹に刺さって貫通、大怪我して療養していた」。始めたばかりの店もいまは閉店。「ヘタしたら死んでいたかもしれないね。生かされても、まだしっかり修行せい、というだね」。

Aさん夫妻。「春野に移住して、民宿を始めたけど、すぐに客が来なくなった。借金もあるし、どうしようとほんとうに苦しかった。あるとき、天竜川の石に猫の絵を描き出して、家族で描いた。それが売れるようになって、借金も返すことができた」。

「そういう苦難の時代を乗り越えたことが、財産だねー」というと、「私達には神がおられるからね。絶望することはない」と言う。クリスチャンなので、源泉はそこにある。奥さんもこう言っていた。「どんなに苦しいことがあっても、そこに道が示される」と。神父や牧師の壇上からの説教よりも、こうして生き方としての信仰の道を聞くと、なるほどと腑に落ちる。
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隣には、しめじを販売するIさん。五和という高地に暮らしている。ちかくに、5年前に越したSさんが、移住。Sさんは、ぼくのところによく移住相談に来られた。見事な見晴らしと雑木林の別荘を買って、敷地も整備して快適な田舎暮らしをしていた。近況を聞くと、「数か月前に亡くなった」という。新聞配達をしていて、仕事の途中で、心筋梗塞で亡くなったという。

その他、手揉み茶の実演をしていたTさん。一昨年に移住して、古民家再生の設計事務所を開いたMさん。カラオケのフェスティバルで〈まちなか〉と山里を結ぶ企画をしているKさん、本業は茶園で、全国で金賞に輝く実績がある。子育てしながら、茶園の新規就農、夫婦で移動「和カフェ」の移動販売をしているYさん。いろいろな出会いがあった。
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あかりは、大きなトランポリンに入って、躍動しているお兄ちゃんお姉ちゃんに混じってよろけながら遊んでいた。

きょうは、お父ちゃん、お母ちゃんは疲れて休みだ。人混みと太陽の日差しがきつくて疲れた。疲れは翌日にもちこされる。きょうは、瓦で石ころを拾ってきて、クレヨンでくまもんや猫を描いて遊ぶとするかな。

ほとんどどこにも旅はできなくなったけれけど、こうしたふととした出会いから人生のドラマを知る。それがまあ旅みたいなものだ。

月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也(芭蕉